全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く
イランの選択肢は多くない
イランのジレンマは、イスラエルの行動を抑止するために最近取った措置がうまくいっていないことだ。
4月13~14日には、300以上のミサイルとドローン(無人機)でイスラエルを攻撃した。4月1日にシリアの首都ダマスカスのイラン大使館が攻撃を受けて、イラン軍高官が殺害されたことへの報復だった。
イランがイスラエル領を直接攻撃したのは、これが歴史上初めてだった。
ところが、イスラエルと同盟国はイランのミサイルとドローンを全て撃ち落とした。しかもその後、イスラエルはレバノンでヒズボラの幹部を、テヘランでハニヤを殺害した。
イラン指導部としては、全く報復しなければ、自分たちがイスラエルに対して無力だと認めるに等しい。しかし、いくつかの要因により、イランが取れる行動は限られている。
まず、イスラエルはイランから地理的に離れており、イランがイスラエルを直接攻撃するには、ミサイル、ドローン、航空機を用いるほかない。
その点、イランが保有する大量のミサイルとドローンを活用すれば、ミサイル防衛網を破ってイスラエルに害を与えられるケースもあるだろう。
しかし、ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。
ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない。
穏健派新大統領の苦しい事情
加えて、アメリカ軍は中東地域に艦船を派遣するなどプレゼンスを強めていて、イスラエルを攻撃すれば重大な結果を招くことになるとイランを牽制している。英仏など欧州諸国も、イスラエル攻撃を思いとどまるようイランに圧力をかけている。
一方、イランの穏健派の新大統領であるマスード・ペゼシュキアンは、権力基盤が強いとは言えない。国民の間でもペゼシュキアン政権に敵意を抱く人たちは多い。イスラエルによるハニヤ暗殺に好意的な声が多く上がるほどだ。
しかも、イランの情報機関は、ハニヤ暗殺という失態により混乱状態にある。そればかりかイスラエルのスパイが大量に潜入しているとも言われている(ハニヤの暗殺にも潜入スパイが関与したのかもしれない)。
トランプが命じた「出生地主義の廃止」には、思わぬ悪影響が潜んでいる 2025.01.31
大統領の「自爆」クーデターと、韓国で続いていた「軍人政治」 2024.12.26
民主主義の危機は民主主義のシステムそのものに内在している 2024.12.14
元CIA工作員が、かつての敵国ベトナムを訪問して新たに発見したこと 2024.11.27