コラム

全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く

2024年08月20日(火)15時58分

newsweekjp_20240820023425.jpg

イスラエルがイランのミサイルを迎撃(4月14日) AMIR COHENーREUTERS

イランの選択肢は多くない

イランのジレンマは、イスラエルの行動を抑止するために最近取った措置がうまくいっていないことだ。

4月13~14日には、300以上のミサイルとドローン(無人機)でイスラエルを攻撃した。4月1日にシリアの首都ダマスカスのイラン大使館が攻撃を受けて、イラン軍高官が殺害されたことへの報復だった。

イランがイスラエル領を直接攻撃したのは、これが歴史上初めてだった。


ところが、イスラエルと同盟国はイランのミサイルとドローンを全て撃ち落とした。しかもその後、イスラエルはレバノンでヒズボラの幹部を、テヘランでハニヤを殺害した。

イラン指導部としては、全く報復しなければ、自分たちがイスラエルに対して無力だと認めるに等しい。しかし、いくつかの要因により、イランが取れる行動は限られている。

まず、イスラエルはイランから地理的に離れており、イランがイスラエルを直接攻撃するには、ミサイル、ドローン、航空機を用いるほかない。

その点、イランが保有する大量のミサイルとドローンを活用すれば、ミサイル防衛網を破ってイスラエルに害を与えられるケースもあるだろう。

しかし、ミサイル、ドローン、航空機の能力では、イスラエル(とアメリカ)のほうがはるかに上だ。大規模な空の戦いを仕掛ければ、イランは途方もない打撃を被る。

ヒズボラにミサイル攻撃を実行させることも可能だが、ヒズボラとイスラエルの間で全面戦争になれば、イスラエルだけでなく、ヒズボラとレバノンに及ぶ打撃も測り知れない。

穏健派新大統領の苦しい事情

加えて、アメリカ軍は中東地域に艦船を派遣するなどプレゼンスを強めていて、イスラエルを攻撃すれば重大な結果を招くことになるとイランを牽制している。英仏など欧州諸国も、イスラエル攻撃を思いとどまるようイランに圧力をかけている。

一方、イランの穏健派の新大統領であるマスード・ペゼシュキアンは、権力基盤が強いとは言えない。国民の間でもペゼシュキアン政権に敵意を抱く人たちは多い。イスラエルによるハニヤ暗殺に好意的な声が多く上がるほどだ。

しかも、イランの情報機関は、ハニヤ暗殺という失態により混乱状態にある。そればかりかイスラエルのスパイが大量に潜入しているとも言われている(ハニヤの暗殺にも潜入スパイが関与したのかもしれない)。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story