コラム

単にイキりたかっただけの「機密情報流出事件」──本当の問題は「消される人々」が出ること

2023年04月24日(月)14時30分
テシェイラ容疑者

自宅近くで武装したFBI捜査員に連行されるテシェイラ容疑者 WCVB-TV-ABC-REUTERS

<ゲーム仲間に「すげぇ!」と言われたかった、21歳の幼稚な空軍州兵。韓国政府に迷惑をかけた上に、情報提供者は「消される」ことに>

またも繰り返された米情報機関の大失態は恥ずべき茶番として片付けたくなる。米国防総省の機密文書が大量にウェブ上に流出した。そこにはウクライナ戦争に関する機密や同盟国の情報も含まれ、韓国高官の会話を傍受したとされる文書もある。

韓国は紛争当事国に殺傷兵器を供与しない方針を取っているが、流出文書にはアメリカに売却した砲弾がウクライナに渡ることを見越した高官の会話が記されている。

それによれば、彼らはアメリカの圧力に屈してウクライナに砲弾を供与したとみられることを恐れて、対策を練っていたようだ。

捜査当局が21歳の空軍州兵ジャック・テシェイラを逮捕したのは流出発覚から3日後。見るからに無分別な若者が手錠をかけられ、武装した捜査員に連行される映像がメディアをにぎわした。テシェイラはネットゲーム仲間に「すげぇ!」と言われたくて機密文書をシェアしたらしい。

アメリカにとって、これは深刻な痛手だ。安全保障上の機微に触れる情報が流出した以上、他国で活動している米情報機関の協力者の何人かは、おそらくその国の情報機関に「消される」ことになる。一部の同盟国との関係もギクシャクしかねない。

今に始まったことではないが、今回もまたとんでもない大ポカで米情報機関の組織的な問題があぶり出された格好だ。

テシェイラの子供じみた動機は驚くに当たらない。人はいつ、祖国を裏切るか。防諜活動のプロが頭文字を取ってMICEと呼ぶ4つの動機がある。マネー、イデオロギー、コンプロマイズ(弱みを握られる)、そしてエゴだ。

他国に機密を渡すアメリカ人の大半はカネ目当てだが、テシェイラの場合は仲間に尊敬されたいエゴ、それにイデオロギーも多少は関係していたようだ。彼はネット上に反ユダヤ主義、人種差別、銃規制反対の書き込みをしていた。こうした右翼的な偏見はしばしば米政府への不信や憎悪と結び付く。

彼の幼稚な承認欲求は米政府のメンツをつぶしたばかりか、韓国政府を気まずい立場に追い込んだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story