トランプは大統領選に勝てない...それでも共和党が彼を切り捨てられない理由
トランプの出馬表明は共和党とアメリカにジレンマを突き付けた JONATHAN ERNSTーREUTERS
<2024年大統領選への再出馬を正式表明したトランプは、民主党候補が誰であれ敗北する可能性大。それでも米政治は、今後も彼に「支配」され続ける>
ドナルド・トランプがフロリダ州の別宅マールアラーゴで悪辣な言葉を並べて2024年大統領選への再出馬を正式表明した11月15日夜、会場には娘のイバンカさえ現れなかった。
その場に駆け付けた政治家は、中間選挙で落選したセクハラ疑惑まみれの若手下院議員マディソン・コーソーンぐらいのもの。「不安と絶望」「ワシントンDCの腐敗と汚職」「極左の狂気」「この破滅の国を救えるのは自分だけ」といった話が延々と続くなか、途中で帰ろうとした聴衆は警備員にドアを塞がれ、文字どおり捕らわれの身となってとどまるしかなかった。
共和党とアメリカも今、聴衆と同じジレンマに直面している。次期大統領選でトランプから逃れるすべはないのだ。
共和党内の指名獲得レースでトランプが先頭を走っているのは明らかだ。トランプは機密文書の持ち出しから金融詐欺、選挙への干渉まで数々の疑惑で有罪になるリスクを抱えており、民主党の候補者が誰であれ大統領選では敗北するだろう。それでも彼は、労働者階級に属する地方の低学歴の白人の多くと、共和党内のかなりの勢力の怒りと恐怖心を操れる存在だ。
不平不満に満ちた75分間の演説をきっちりと聞く経験は衝撃的だった。「誰もが自分を狙っている」「腐敗がひどい」といったお決まりの支離滅裂な話と、プロのスピーチライターが書いたであろう筋の通った、時に抒情的な表現が混在する演説で、トランプは普段以上にサイコパスらしい無感情の話し方をしていた。
トランプが自然にほほ笑むことはまずない。相手をにらみ、ふてくされ、自画自賛し、罵詈雑言を浴びせる。数々の法的脅威が迫るなか、トランプは20年大統領選の敗北を認められない心理状態にある。
自分に従わなければすべてを破壊する
だが、彼は怒りと憎しみをたぎらせながら自分のことばかり語る男だ(「私は天才だ」「解決できるのは私だけ」「私は選ばれし者だ」)。今回の出馬表明でも、お決まりの悪──国境の無法状態、外国からのアメリカ蔑視、冷酷なエリートたちなど──を並べ立て、アメリカ全体が自分に「忠誠」を誓わない限り「腐った」システムを丸ごと破壊する、と脅した。
もっとも、共和党に対するトランプの影響力は大統領選を制した16年当時よりも弱まっている。共和党の大物たちは、マールアラーゴでの出馬表明への出席を回避。ここにきてようやくトランプと距離を置こうとする者も現れ始めた。「現時点では彼は障害でしかない」と、共和党全国委員会のあるメンバーは語っている。
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