コラム

岸田政権の「原発回帰」が正しい一方で、今すぐやるべきことは何か?

2022年10月24日(月)13時53分
東京電力柏崎刈羽原子力発電所

東京電力が再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原子力発電所 YURIKO NAKAOーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<エネルギーサプライチェーンの混乱、円安苦境、CO2排出量削減が不十分な日本。中期的に原発を再活用する決定は理にかなうが、世界の気温上昇が2.0度に達する2030年までに、残された時間は8年しかない>

ロシアのウクライナ侵攻は、皮肉な形で日本のエネルギー政策に好影響を与えるかもしれない。

岸田文雄首相の政権は、化石燃料への依存を減らし、エネルギー需要の相当部分を「自給」し、地球温暖化に対処するため本格的に動きだした。具体的には、原子力発電の再活用だ。

ウクライナ戦争によるエネルギー価格高騰と世界的インフレ、円安は日本経済に大きな圧力を加えている。そこで岸田は8月24日、原子力産業の再活性化と発電量の大幅な拡大を示唆した。

低コストの太陽光発電や風力発電の技術は急速に発展している。福島第一原発事故から11年後の今も、周辺337平方キロが原則立ち入り禁止の「帰還困難区域」だ。

それでも原発は最も手っ取り早くクリーンで安価な発電であり、二酸化炭素(CO2)排出量を減らし、戦争によるエネルギー価格上昇が経済にもたらす衝撃を緩和できる。福島の事故後、原発技術はかなり進歩しており、リスクは桁違いに低くなっている。岸田は正しい決断をした。

日本のエネルギー政策の目標は、地球温暖化への対策としては極めて不十分だ。世界の気温上昇が2.0度の破滅的水準に達する事態が避けられなくなる2030年までに、残された時間はあと8年しかない。

基本方針は、安全確保を前提にエネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合を目指すもので、「S+3E」と呼ばれている。

2018年に策定された第5次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの比率を高め、原発を再活用することで「エネルギーミックス」(電源構成)の多様化を目指している。その意味で岸田の発言は、以前の政策を踏襲したものにすぎない。

ただし、日本がCO2排出量を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」の実現を目指すとしているのは2050年。

世界が地球温暖化の環境・経済・社会への破滅的影響を回避できなくなる「ティッピングポイント」(後戻りできない臨界点)の20年後だ。

さらに日本は将来的なCO2削減の30~50%を、現時点では本格的な実用化のめどが立っていない水素発電やCO2回収の技術開発に依存している。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story