岸田政権の「原発回帰」が正しい一方で、今すぐやるべきことは何か?
東京電力が再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原子力発電所 YURIKO NAKAOーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<エネルギーサプライチェーンの混乱、円安苦境、CO2排出量削減が不十分な日本。中期的に原発を再活用する決定は理にかなうが、世界の気温上昇が2.0度に達する2030年までに、残された時間は8年しかない>
ロシアのウクライナ侵攻は、皮肉な形で日本のエネルギー政策に好影響を与えるかもしれない。
岸田文雄首相の政権は、化石燃料への依存を減らし、エネルギー需要の相当部分を「自給」し、地球温暖化に対処するため本格的に動きだした。具体的には、原子力発電の再活用だ。
ウクライナ戦争によるエネルギー価格高騰と世界的インフレ、円安は日本経済に大きな圧力を加えている。そこで岸田は8月24日、原子力産業の再活性化と発電量の大幅な拡大を示唆した。
低コストの太陽光発電や風力発電の技術は急速に発展している。福島第一原発事故から11年後の今も、周辺337平方キロが原則立ち入り禁止の「帰還困難区域」だ。
それでも原発は最も手っ取り早くクリーンで安価な発電であり、二酸化炭素(CO2)排出量を減らし、戦争によるエネルギー価格上昇が経済にもたらす衝撃を緩和できる。福島の事故後、原発技術はかなり進歩しており、リスクは桁違いに低くなっている。岸田は正しい決断をした。
日本のエネルギー政策の目標は、地球温暖化への対策としては極めて不十分だ。世界の気温上昇が2.0度の破滅的水準に達する事態が避けられなくなる2030年までに、残された時間はあと8年しかない。
基本方針は、安全確保を前提にエネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合を目指すもので、「S+3E」と呼ばれている。
2018年に策定された第5次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーの比率を高め、原発を再活用することで「エネルギーミックス」(電源構成)の多様化を目指している。その意味で岸田の発言は、以前の政策を踏襲したものにすぎない。
ただし、日本がCO2排出量を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」の実現を目指すとしているのは2050年。
世界が地球温暖化の環境・経済・社会への破滅的影響を回避できなくなる「ティッピングポイント」(後戻りできない臨界点)の20年後だ。
さらに日本は将来的なCO2削減の30~50%を、現時点では本格的な実用化のめどが立っていない水素発電やCO2回収の技術開発に依存している。
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