コラム

ニッポンを再び「大国」にした、安倍元首相の功罪とは?

2022年08月09日(火)10時27分

220719p22_CAL_02.jpg

2018年の国際会議で韓国の文在寅大統領(当時、左)と同席したが...... FRANCOIS LENOIRーREUTERS

もちろん、安倍の政治が全て成功だったわけではない。人種差別的なナショナリズムの歴史とは一線を画しながら愛国心と活力と自立を取り戻すことも可能だったはずなのに、安倍はそのことを理解できなかった。あるいは、理解しようとしなかった。

戦争犯罪者たちを暗黙に、あるいは明示的にたたえることなく、靖国神社に祀(まつ)られた人々に敬意を表することはできたはずだ。

この両者の区別をはっきりさせて行動していれば、日本は未来に向けて進むことができ、国際的な非難を浴びずに済んだだろう。しかし、安倍は自身の支持層である極右ナショナリスト勢力と決別しようとはしなかった。

韓国政策も失敗だったと言わざるを得ない。安倍は野党政治家だった2010年、韓国併合に関して日本の責任を認めた菅直人首相(当時)を激しく批判したことがあった。

しかし、日本が韓国を併合したことは事実であり、安倍は韓国でくすぶり続けている怒りを(それに同意しなくても)認識すべきだった。

確かに戦後80年近くたつのに、韓国はいささか被害者として振る舞いすぎる傾向がある。しかし、日本はこの何十年もの間、自国が過去に韓国で行った行為について責任を認める努力を怠ってきた。そうした態度は、韓国やほかの国々(アメリカも含まれる)の怒りを買っている。

安倍は日本の国益を優先させるべく、自身のナショナリズムを乗り越えて行動することができなかったように見える。この点は戦略上のミスと言うほかない。中国が台頭するなか、日本は戦略的同盟国として韓国を必要としているからだ。

しかし、業績全体を見れば、こうしたことは比較的小さな問題にすぎない。安倍は日本のリーダーとして、歴史上類のない大きな成果を残した。

安倍晋三は、日本の未来を形づくるために積極的に行動し、その取り組みの多くで成功を収めた政治指導者だった。

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story