アメリカの地方の低学歴の白人が、「銃=自由」を本気で正しいと信じる理由
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止まらない自己破壊の連鎖(事件翌日のハイランドパーク) CHENEY ORRーREUTERS
<どれだけの人々が銃犯罪で命を落とそうと、銃の支持者の「自由のために必要な犠牲」という信念が決して揺るがない構図とは?>
今年1月1日以降、アメリカでは銃乱射事件(1人以上の容疑者の犯行によって4人以上が銃で負傷または死亡した事件)が300件以上、発生している。5月24日にテキサス州ユバルディの小学校で児童19人を含む21人が犠牲になってから、7月4日にイリノイ州ハイランドパークで独立記念日を祝うパレードの最中に7人が死亡、数十人が負傷するまでの間にも100件以上起きている。
いつものように、国民の3分の2は大量の血が流れたことに憤慨し、銃規制の強化をさらに強く求めている。一方で国民の3分の1は、「罪のないアメリカ人の死は、銃器を規制なしに所有する自由のために必要な代償である」と信じ、銃規制に向けた政府のいかなる行動も阻止している。
こうした麻痺状態を生んだのは、アメリカの政治システムだ。銃愛好家が多く住む地方部の有権者が不釣り合いに大きな影響力を持ち、共和党は地方部の白人有権者と、強力なロビー団体である全米ライフル協会(NRA)と手を携えている。
銃社会アメリカの「事実」を見れば、社会病質的な様相は明らかだ。2021年に銃で死亡した人は全米で4万5000人。00年以降70万人以上が銃で命を落としている。犯罪率や自殺率、精神疾患の罹患率はヨーロッパと同程度だが、銃による死亡率は10倍も高い。ヨーロッパでは銃器の数は5.5人に1丁、アメリカは1人に1.2丁。私の家から20分以内に銃砲店は10軒以上ある。これが「普通の」アメリカだ。
国民の1/3にとっては社会的・政治的アイデンティティー
ただし、こうした事実も重要な意味を持たない。「銃を持つ権利」は、共和党支持者や地方在住者、低学歴の人々にとって、集団意識と帰属意識を強化する社会的・政治的アイデンティティーになっているからだ。国民の3分の1にとってこの権利は、自分の居場所とリバタリアニズム(自由意思論)を確認する手段だ。
銃乱射事件に対する反応は今や儀式的でさえある。共和党とNRAは犠牲者に敬虔な「思いと祈り」をささげ、「今はこの悲劇を議論したり政治問題化したりする時ではない」と厳かに言いつつ(では、いつならいいのか)、いかなる銃規制もアメリカの「自由」を侵害すると反対する。
6月下旬には米上下院で、銃の安全対策を強化する超党派の法案が可決された。もっとも、30年ぶりの「歴史的」快挙ではあるが、18~21歳の銃購入希望者の身元確認が強化されるにすぎない。
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