コラム

「プーチンとの友情」を大急ぎで隠したルペン、「移民排斥」でマクロンに勝てるか?

2022年04月12日(火)17時25分
フランス大統領選

選挙戦終盤でルペン(右ポスター)はマクロンを激しく追い上げた GONZALO FUENTESーREUTERS

<フランス大統領選は、現職のマクロンと極右ルペンが4月24日の決選投票に進んだ。ロシアのウクライナ侵攻はマクロンを後押しすると見られるが>

4月10日に行われるフランス大統領選挙の第1回投票では、反NATOの極左候補ジャンリュック・メランションから反移民の極右エリック・ゼムールまで、12人がしのぎを削る。

おそらくどの候補も過半数を獲得できず、4月24日に上位2人による決選投票が行われる。その顔合わせは、直近の世論調査で支持率27%で首位に立つ中道派の現職エマニュエル・マクロン大統領と、極右勢力を代表するマリーヌ・ルペン(同22%)という2017年の再現になることがほぼ確実視されている(編集部注:10日の投票の結果、首位マクロンと2位のルペンが決選投票に進むことが決まった)。

選挙の主要な争点は3つ。戦争、文化的アイデンティティー、労働者階級の不安と怒りだ。

ロシアのウクライナ侵攻は、安全保障問題をめぐる論争を一変させた。危機が国民をリーダーの下に結集させる効果は、マクロンを強力に後押しするはずだ。

マクロン陣営は、当初はロシアの侵攻を止めようとする大統領の努力に焦点を当て、開戦後はNATO諸国との協力を強調してきた。一方、長年ロシアのプーチン大統領にすり寄り、NATOを軽視してきたルペンは苦しい立場に追い込まれた。大急ぎで独裁者プーチンとの友情をうたった120万部の選挙パンフレットを破棄しその指導力を称賛した過去を封印しようとしている。

だが今回の選挙では、ウクライナ戦争以上に2つの国内問題が重要なカギを握る。

「移民の国フランスはもう終わりだ」

まず、フランスの「アイデンティティー」喪失問題。移民、イスラム、文化の衝突と不安がフランスにもたらす苦悩を私が初めて意識したのは、アルプスの麓の大学都市グルノーブルに住んでいた1976年秋のことだった。

夜遅く、寂れた街の中心部を歩いて帰宅する途中で見掛けたのは、アルジェリアやモロッコから来た寂しそうな男たち。彼らは戦後フランスの復興景気の中で工場に雇われた労働者だ。行き場もなく、家族もなく、社会から疎外された彼らは、迷子のように道をさまよっていた。

フランスでは現在、人口の10%近くがイスラム教徒だ。ルペン(と父親のジャンマリ・ルペン)やゼムールのような極右政治家は数十年前から、フランスのアイデンティティーに対する移民の危険性を説き、イスラム系移民への反対を訴えてきた。

ルペンは「移民の国フランスはもう終わりだ」と宣言。フランスは「多文化主義のベールの下に」埋もれてはならないと主張した。イスラム系女性のベール着用問題と、多文化主義が社会を腐敗させるという右派の見方を結び付けた挑発的な言辞だ。

ゼムールはさらに過激で、「大置換」と呼ばれる陰謀論を支持している。近い将来イスラム教徒がフランスの白人カトリック教徒に取って代わるという主張だ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story