コラム

ゼレンスキーの「名演説」は歴史に残る...実際に戦局を有利にした「言葉の力」

2022年03月29日(火)17時53分
ゼレンスキー演説

日本の議員たちも総立ちで拍手を送った(3月23日) BEHROUZ MEHRIーPOOLーREUTERS

<各国の議会で行う演説によって確実に支援に結び付けてきたウクライナのゼレンスキー大統領。その影響力はチャーチルやルーズベルトに匹敵する>

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻後1カ月で国家統合の象徴となり、各国の議会での演説を通じて自国をロシア軍から救うため、世界を結集させた歴史的名弁士となった。

その言葉は何千人ものシニカルな政治家の涙を誘い、ウクライナに武器と政治的支援を提供させるきっかけになった。ゼレンスキーの演説はチャーチルやフランクリン・ルーズベルトに匹敵するものだ。

ルーズベルトは大恐慌に立ち向かい、孤立主義的な世論を第2次大戦への参戦に導くため、アメリカ人を結集させようとした。そのために用いた最も効果的な手法の1つが「炉辺談話」だった。

当時のラジオはまだ誕生から10年もたっていなかったが、彼は大恐慌と第2次大戦の間に30回もラジオで国民に語り掛けた。アメリカが直面した2つの大きな危機において、この「談話」は国民の支持を集めるのに効果を発揮した。

ゼレンスキーはズーム(Zoom)、スカイプ、セルフィーといった現代のオンライン会議テクノロジーを使い、同様のインパクトを与えている。

ウクライナ侵攻からの1カ月間、少なくとも10カ国の議会で演説し、2月24日にはEU首脳との間で歴史的なバーチャル会議を行った。緊急性、親密さ、率直さ、控えめな演出、生死を懸けたドラマをここまで兼ね備えた議会演説は、過去に誰もしたことがない。

EU首脳を軍事支援に踏み切らせた

ゼレンスキーは議員たちを親しい友人として扱い、民間人の軍事指揮官でも儀礼的な外交パートナーでもなく、いつ殺されるか分からない環境に身を置く戦時指導者として現実を突き付け、道徳的義務を感じさせようとした。無精ひげに痩せこけたTシャツ姿で、議員たちに行動を迫った。

2月24日夜、EU首脳への演説を終えたゼレンスキーは、「これが生きている私を見る最後の機会になるかもしれない」と告げ、各国首脳は呆然としたまま黙り込んだ。この発言によって、EU首脳はウクライナへの軍事支援に踏み切ったとみていい。

ゼレンスキーは自国の危機を、演説するそれぞれの国の最も苦しい、そして最も決定的な瞬間と直接結び付けた。イギリスに対しては「我々は森で、野原で、海岸で戦う」と、第2次大戦中のチャーチルの演説を引用した。

アメリカには真珠湾攻撃と9.11同時多発テロを持ち出し、「我々は答えを求めている。テロに対する答えを。これは求めすぎだろうか」と迫った。日本向けの演説では、原発事故の災厄と「侵略の津波」に言及した。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米情報機関「中国は最大の脅威」、AIで米凌駕 台湾

ビジネス

NY外為市場=ドル/円軟調、関税導入巡る不透明感で

ビジネス

米国、輸出制限リストに70団体を追加 中国・イラン

ビジネス

米国株式市場=続伸、米関税巡る柔軟姿勢に期待 経済
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story