ゼレンスキーの「名演説」は歴史に残る...実際に戦局を有利にした「言葉の力」
日本の議員たちも総立ちで拍手を送った(3月23日) BEHROUZ MEHRIーPOOLーREUTERS
<各国の議会で行う演説によって確実に支援に結び付けてきたウクライナのゼレンスキー大統領。その影響力はチャーチルやルーズベルトに匹敵する>
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻後1カ月で国家統合の象徴となり、各国の議会での演説を通じて自国をロシア軍から救うため、世界を結集させた歴史的名弁士となった。
その言葉は何千人ものシニカルな政治家の涙を誘い、ウクライナに武器と政治的支援を提供させるきっかけになった。ゼレンスキーの演説はチャーチルやフランクリン・ルーズベルトに匹敵するものだ。
ルーズベルトは大恐慌に立ち向かい、孤立主義的な世論を第2次大戦への参戦に導くため、アメリカ人を結集させようとした。そのために用いた最も効果的な手法の1つが「炉辺談話」だった。
当時のラジオはまだ誕生から10年もたっていなかったが、彼は大恐慌と第2次大戦の間に30回もラジオで国民に語り掛けた。アメリカが直面した2つの大きな危機において、この「談話」は国民の支持を集めるのに効果を発揮した。
ゼレンスキーはズーム(Zoom)、スカイプ、セルフィーといった現代のオンライン会議テクノロジーを使い、同様のインパクトを与えている。
ウクライナ侵攻からの1カ月間、少なくとも10カ国の議会で演説し、2月24日にはEU首脳との間で歴史的なバーチャル会議を行った。緊急性、親密さ、率直さ、控えめな演出、生死を懸けたドラマをここまで兼ね備えた議会演説は、過去に誰もしたことがない。
EU首脳を軍事支援に踏み切らせた
ゼレンスキーは議員たちを親しい友人として扱い、民間人の軍事指揮官でも儀礼的な外交パートナーでもなく、いつ殺されるか分からない環境に身を置く戦時指導者として現実を突き付け、道徳的義務を感じさせようとした。無精ひげに痩せこけたTシャツ姿で、議員たちに行動を迫った。
2月24日夜、EU首脳への演説を終えたゼレンスキーは、「これが生きている私を見る最後の機会になるかもしれない」と告げ、各国首脳は呆然としたまま黙り込んだ。この発言によって、EU首脳はウクライナへの軍事支援に踏み切ったとみていい。
ゼレンスキーは自国の危機を、演説するそれぞれの国の最も苦しい、そして最も決定的な瞬間と直接結び付けた。イギリスに対しては「我々は森で、野原で、海岸で戦う」と、第2次大戦中のチャーチルの演説を引用した。
アメリカには真珠湾攻撃と9.11同時多発テロを持ち出し、「我々は答えを求めている。テロに対する答えを。これは求めすぎだろうか」と迫った。日本向けの演説では、原発事故の災厄と「侵略の津波」に言及した。
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