北京五輪「外交ボイコット」続々、世界が注目するのは日本の対応
岸田首相は「国益の観点から判断する」と述べたが…… EUGENE HOSHIKOーPOOLーREUTERS
<開催国の「悪行」を見て見ぬふりをするかに悩む民主主義国家。世界から注目される日本は、米英豪などの決断に賛同すべきだ>
近代五輪の父クーベルタン男爵は1908年、ロンドンのレセプションで五輪の信条をこう定義した。「人生で重要なのは勝利ではなく、よく戦うことである」
2022年2月に北京で冬季大会を開催する中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、少なくとも「戦う」という部分には同意するだろう。東京五輪の前にも指摘したが、五輪は開催国のイメージアップの機会だ。さらに中国にとっては、アジアと世界の覇権国になるという目的を達成するための手段でもある。
だが多くの国の目には、習近平体制の中国は不安定化し、脅威が増しているように見える。五輪を単なるスポーツ競技大会として扱っていいのか。以前から開催国の悪行を見て見ぬふりをするかどうかは、民主主義国家にとってジレンマだった。
最初の例が1936年のベルリン大会だ。ヒトラーは600万人のユダヤ人を抹殺する準備をしながら、「アーリア人種」の優越性を宣伝する機会に五輪を利用しようとした。当時アメリカはギリギリの判断で参加を決め、ヒトラーは目的を果たした。
親切で友好的な国と印象付けたい中国
だが今回はアメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダ、ニュージーランドが次々と北京五輪の「外交的ボイコット」を発表した。人権や国際的規範に対する中国の行為は看過できないと判断したわけだ。
そして今、日本の対応に注目が集まっている。中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、言うことを聞かない相手には懲罰を加える国だ。今のところ日本の岸田首相は態度を明らかにしていない。
短期的な習の狙いは、五輪を利用して中国を親切で友好的な国として印象付けることにある。だが現実の中国はウイグル人の大量虐殺に加え、インドとは国境付近で衝突。海軍の艦船は津軽海峡を通過し、日本列島を挑発的に一周した。他国に対し、軍事力を伴う領土・領海の要求を何度も繰り返し、太平洋地域の全ての国を警戒させている。にもかかわらず、中国外務省報道官は「『もっと団結を』という五輪のモットーに反する」と外交的ボイコットを批判した。
習には長期的な戦略目標もある。個人の人権と民主的プロセスを基盤とするアメリカ主導の国際的規範システムを破壊することだ。習はそれに替えて、国家主体の専制主義的な国際的規範と独自の「勢力圏」を作り上げ、アジアを支配しようとしている。あくまでスポーツだけに焦点を当てた「正常な五輪」の開催は、中国の「内政不干渉」政策にお墨付きを与え、人権や紛争解決の国際的規範の否認につながりかねない。
リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと 2024.10.22
戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイスラエルを待つ落とし穴 2024.10.08
カマラ・ハリスの大統領選討論会「圧勝」が、もはや無意味な理由 2024.09.25
共和党バンスvs民主党ウォルズは、あまりに対照的な副大統領候補対決 2024.09.03
全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く 2024.08.20
大統領への道「勝負の100日間」ハリスの物語と夢のパワーがアメリカの命運を決める 2024.08.01
追い詰められた民主党が苦しむ「バイデン降ろし」のジレンマ 2024.07.20