コラム

79歳バイデン大統領、再出馬を「リーク」して目的を達成した

2021年11月29日(月)19時10分
ジョー・バイデン米大統領

次期大統領の任期が終わる2028年、バイデンは87歳だが…… AP/AFLO

<2024年に再選を目指す意向を献金者に伝えると、すぐさまメディアに広まった。間違いなく意図的なリークだが、何が目的だったのか>

バイデン米大統領は11月20日までに、少人数の献金者に2024年の大統領選で再選を目指す意向を伝えたという。

この発言は瞬時に(そして間違いなく意図的に)報道機関にリークされ、すぐさまバイデンの狙いをめぐり臆測が飛び交った。

バイデンが少なくとも1つ目の目的を達成したのは明らかだ。

再出馬の意向や再選の可能性について、反対派や潜在的ライバルに世論形成の主導権を渡さず、2024年の選挙についての議論をリードするという狙いだ。

また、支持率の低下に見舞われている今の時期に少なくとも一時的に政治的影響力を高めることにも成功した。

再出馬の可能性は確かにあるが、その狙いは2024年に向けた意思表明というより、目の前の政治課題への対処にあった。

「本物の再出馬宣言」であれば他の政治家と同様、少数の献金者との「バーチャルミーティング」ではなく、インパクトを最大化するために派手な舞台を選ぶはずだ。

そもそも、なぜ今なのか。

2020年の大統領選挙中バイデンは自らを次世代の民主党リーダーのための「懸け橋」となる候補と位置付けた。そのため大統領に当選したとしても、1期限りで終わるのではないかという臆測が広がった。

その点で再出馬をにおわせる今回の発言は、バイデンの心変わりを示唆しているように見える。

しかし、「懸け橋」発言は選挙戦で有権者に受け入れてもらい、ライバルの警戒心を解くための戦術だ。

過去40年間の政治闘争で傷つき、年老いた候補者ではなく、アメリカに未来をもたらせる候補者だとアピールするためのものだった。

つまり「懸け橋」発言は本気であれ方便であれ、抜け目ない政治的な一手だった。

再出馬の意向を献金者に伝えたのも同様の戦術だ。

大統領選勝利から1年間で支持率は41%まで低下した(トランプ前大統領の同時期の支持率は35%)。しかも、10月の消費者物価指数は前年同月比で6.2%上昇と31年ぶりの高い伸びを記録した。

物価上昇はほとんどの経済・政治問題以上に有権者のストレスとなり、大統領に非難が集中する。今の国民の大半が2%以上のインフレを経験していないとすれば、なおさらだ。

特に自動車大国アメリカはガソリン価格に敏感だが、バイデンの当選後62%も上昇している。

ほとんどのアメリカ人は国内の政治的分断や党派対立、民主党の内紛に深い懸念を抱き、課題に対処できないように見える政府に怒りを感じている。

さらにサプライチェーンの混乱が経済の足を引っ張っている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story