近未来予測:もしもアメリカが鎖国したら...世界に起こること
新型コロナウイルスでアメリカではこれまでに200万人超が死亡。医療制度は崩壊した。2020年5月、当時のドナルド・トランプ大統領は中国が「真珠湾攻撃よりもひどい」奇襲攻撃を仕掛け、ウイルスをばらまいたと主張した。ドリスの近所の人たちのざっと3分の1は今もその話を信じているようだ。
その後もコロナ禍は収まらず、政府の無策に人々はしびれを切らし、抗議デモの波が全米に広がった。アメリカ社会を分断する亀裂からマグマのように憎悪が噴出、一部の都市は騒乱状態に陥った。
混乱が広がるなか、政府は「中国ウイルスの侵入を阻止する」という名目で国境を封鎖、それがあっという間に鎖国政策にエスカレートした。
天然資源と人的資本に恵まれたアメリカは世界の国々の中でも例外的に、複雑な市場経済を維持しつつ自給自足を達成しやすい。
2018年にはGDPに占める貿易額の割合は27.5%だったが、今では1950年代以降最低の5%にまで落ち込んでいる。外資を締め出したために金利は急上昇。成長は止まり、資金不足で老朽化したインフラは崩壊の一途をたどっている。
ドリスは軍と警察の検問所を迂回するため遠回りして自宅に向かった。
南シナ海戦争の勃発時、ドリスの夫はまさにその場にいた。夫が乗り込んだ駆逐艦が「航行の自由」作戦を決行中、中国の監視船が体当たりを仕掛けてきたのだ。駆逐艦はミサイルを発射し中国船を撃沈。近くのスプラトリー(南沙)諸島に展開していた中国軍が「米軍の侵攻」に直ちに反応し、中距離弾道ミサイルを発射。米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」を撃沈した......。
この戦争には日本、ベトナム、オーストラリア、インドも巻き込まれた。米軍は南シナ海の中国軍施設をずたずたにしたが、中国軍も沖縄の米軍施設を破壊し尽くした。これに懲りてアメリカはあらゆる防衛同盟からの脱退を宣言した。
「本物のアメリカ人」とは誰か
そこでインド、日本、オーストラリアは南シナ海とインド洋の航行の自由を守るため急きょ「日豪印海上防衛協定」を締結。中国向け貨物を積んだ船舶をマラッカ海域から締め出した。中国市場を失って原油価格は暴落。中東全域に混乱が広がった。
アメリカが抜けた後、NATOは「欧州条約機構」の略称であるETOと改称。中東からの難民の大量流入に対処するため、南欧諸国に重点的に兵力を配備した。その隙にロシアはウクライナ東部を併合し、バルト3国との国境地帯にも大量の兵員を投入。南部と東部の二方面の危機にさらされ、ETO加盟国は徴兵制の再導入に踏み切ることになった。
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