「法と秩序」を掲げるトランプの恐怖戦術にだまされるな
確かに新型コロナウイルスの感染拡大以降、銃犯罪が増えたが、そのほぼ全てがギャングの抗争がらみだ。これはロックダウン(都市封鎖)による活動制限や、デモへの対応で銃犯罪への対処に手が回らなかったためだと、ニューヨーク市警は説明している。警察や司法が手薄になったため、ギャングたちは「今なら銃を使っても処罰されにくい」と考えたらしい。その結果、ギャング間のいざこざは増えたが、社会全体で銃犯罪が増えたわけではない。
この7月には、ニューヨークにおける銃犯罪の摘発件数は、コロナ禍の前に近いレベルまで戻ってきた。従って今後は、銃を使ったギャング間の抗争も減っていくと考えていいだろう。
確かにニューヨークもアメリカ全体も、多くの問題を抱えている。何百万人もの人々が人種的正義を求めてデモ行進をしている一方で、大統領と共和党は事実を歪曲し、醜い嘘をまき散らすことにより、政敵を中傷し、自警団気取りの市民による殺人を擁護し、白人至上主義を支持し、人種的正義を求める人々を悪人扱いしている。
だが、コロナ禍での銃犯罪の増加は、社会的距離の実践と、司法システムの一時的なリソース減の結果だ。「法と秩序」が崩壊した結果ではないことは間違いない。
<本誌2020年9月8日号掲載>
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