嘘つき大統領トランプがアメリカの民主主義を打ち砕く
アメリカ史上、弾劾に直面した大統領は3人。1868年にアンドリュー・ジョンソンは、南北戦争終結後に南部寄りの政策を取ったとされた。1974年にリチャード・ニクソンは、ウォーターゲート事件をめぐる違法行為を問われたが、弾劾裁判の直前に辞任した。1999年にビル・クリントンは自身の情事をめぐる偽証を問われた。
ただし、実際に弾劾裁判でホワイトハウスを追われた大統領はいない。
中国に選挙介入を要求
民主党は数多くの文書と供述証拠を基に、今回の疑惑に絞って弾劾調査を進めている。しかし、相手はトランプだ。その直感的な手法と露骨な政策目標は、さながら毎日がテレビのリアリティー番組だ。
トランプは毎朝5時半か6時頃から、陰謀論や下品な侮辱、さらには自己憐憫と自画自賛をツイッターに投稿する。議会が弾劾に値する容疑だと認める前に、記者会見で、中国政府にも自分の政敵を攻撃する手助けを求めたいと言ってのけた。
そのやり方は、どんな問題に直面してもぶれることがない。決して間違いを認めず、決して謝罪しない。外国政府に米大統領選への介入を求めるかのような発言も意に介さない。
弾劾裁判を開くかどうかを決めるのは、民主党が多数派を占める下院だ。しかし、弾劾するかどうかを決めるのは、共和党が多数派の上院だ。罷免には上院の3分の2の賛成票が必要だが、まず実現しそうにない。
トランプが弾劾を回避できれば、弾劾手続きによって自分の潔白が証明されたと主張するだろう。そして、信用を失った(と、彼は主張するはずだ)議会の民主党指導部に対し、さらに強権的な支配を振るうだろう。
その一方、もしトランプの罷免が実現すれば、米政府の針路も指導体制も変わる。トランプは複数の罪状で起訴され、共和党は過去に例を見ない大変動に見舞われる。
とはいえ今回の弾劾調査は、アメリカの歴史における極めて深刻な事件の一端にすぎない。今やアメリカの民主主義の根幹と慣行がゆっくりと、恐ろしいまでに崩壊し始めている。この国の民主主義そのものが崩れ落ちようとしているのだ。
筆者は近年、アメリカの制度と民主主義は国家を二分した南北戦争以来、最悪の危機の渦中にあると何度も警告を発してきた。民主主義的な規範、慣行、制度、法律はどれも段階的に腐食が進み、政府は法やチェック・アンド・バランスを原則とする「国民の代表」ではなく、ごく少数の男たちが権力を振るう構造に化しつつある。
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