コラム

日本と韓国の対立を激化させたアメリカ覇権の衰退

2019年08月28日(水)18時00分

(左上から反時計回りに)トランプの暴走、中国の台頭、安倍政権、南北朝鮮の接近──全て地政学的変化の結果であり要因でもある RALPH FRESO/GETTY IMAGES, PYEONGYANG PRESS CORPS-POOL-REUTERS, LI GANG-XINHUA/AFLO, KIM KYUNG-HOON-REUTERS

<戦後の世界を支えたアメリカの覇権とグローバル化が限界に達したことを、韓国のGSOMIA破棄は示唆している>

日本と韓国が過去の呪縛から逃れられれば何の問題もないのだが、残念ながら出口はない。現在の国際情勢は少なくとも過去の過ちと同程度に重要だ、という考え方を受け入れようとしない韓国の姿勢は、日韓両国だけでなく、アメリカとアジア全体にも悪影響を及ぼしそうだ。

韓国は8月22日、日本との秘密情報保護協定(GSOMIA)を破棄すると発表した。日本が8月2日、輸出管理上の優遇対象である「ホワイト国」から韓国を除外すると決定したことに対する報復措置だ。それ自体、第二次大戦中のいわゆる「元徴用工」への賠償問題に関連して、日本企業の資産差し押さえを命じた韓国最高裁の判決を受けた日本側の対応だった。

75~110年ほど前の韓国併合に対する日本の「償い」をめぐる対立は尽きることがない。今回の出来事は、その最新の事例にすぎない。

GSOMIAは、国家間で共有される秘密の軍事情報が、第三国に漏れないよう保護するための協定だ。日本はアメリカと2007年に最初のGSOMIAを締結して以降、欧州主要国とも協定を結んでおり、2016年にはアジア初となる韓国とのGSOMIAを締結した。

そもそもこれは情報漏洩を防ぐための協定で、日韓GSOMIAの第1条にも機密保護の確保が協定の目的と記されている。ただ実際は、「円滑かつ迅速な情報交換」が行われることも協定の目的とされており、日韓間ではとりわけ北朝鮮のミサイル発射に関する情報共有が行われてきた。

北朝鮮問題を筆頭に北東アジアの安全保障で日韓と連携するアメリカにとって、日韓GSOMIAは重要な情報管理のツールだった。そのため韓国政府による破棄決定に対して、トランプ政権は不満をあらわにした。

一方、アメリカ国民はグリーンランドを買い取りたいと言い出した大統領の「知力不足」に関心を奪われている。自国の民主主義が茶番劇と化し、ファシズムに向かいつつある今、日韓のいさかいは大きな注目の的にはなっていない。

それでも、アジア専門家の間には懸念が広がっている。日韓の対立はアメリカの重要な同盟関係を毀損しつつある。ドナルド・トランプ米大統領のグリーンランド買収話と同様、この問題は不安定化する国際秩序の要因であり結果でもある。アジア地域の(および北大西洋の)戦略的バランスは、日に日に危険性を増している。

日韓の対立激化は中国と北朝鮮の利益となり、日本と韓国に害をもたらす。両国で自己破壊的ナショナリズムをあおり、地域の安定を危険にさらしている。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、2月は前月比+1.0 非食品好調で予

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、貿易戦争巡る懸念でも目標達成へ

ワールド

タイ証取、ミャンマー地震で午後の取引停止 31日に

ワールド

ロシア、ウクライナがスジャのガス施設を「事実上破壊
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story