コラム

日韓を引き裂く旭日旗の呪縛

2018年10月11日(木)17時00分

演習に向けて出航する海自のヘリコプター搭載護衛艦「かが」(9月) Kim Kyung Hoon-REUTERS

<韓国での国際観艦式を前に炎上した「旗」論議――海上自衛隊は式典への参加を見送ると発表したが......>

当然といえば当然の話だった。10月10~14日に韓国・済州島で開かれる国際観艦式をめぐって、海上自衛隊が論議の波に襲われるのは......。

15カ国の艦船が集う国際観艦式は、参加国の海軍間の協調促進を目的とするもの。太平洋地域で中国が海軍力を高め、大国としての存在感を強めるなか、その象徴的(もしかしたら作戦的にも)重要性は増している。

論議の的になっていたのは、日本の法律と国際ルールに従って海上自衛隊の艦船が掲げる旭日旗だ。韓国海軍は参加国に対し、10月11日に行われる海上パレードの際、自衛艦旗である旭日旗を含めて軍艦旗は掲揚せず、自国と韓国の国旗を掲げるよう要請。旭日旗を掲げた自衛艦は歓迎しないとの意向も示した。

韓国人にとって旭日旗は20世紀前半、特に第二次大戦中の日本による支配を想起させる存在だ。何世紀にもわたり近隣の大国、中国と日本に翻弄されてきた歴史ゆえ、韓国が「被害者意識」をアイデンティティーの一部とし、かつての支配国に反感を抱いている側面もなくはない。

一方、日本にしてみれば、旭日旗が象徴するのは必ずしも帝国主義時代の犯罪ではない。旭日旗は公式に国際的に認められているという意識もある。

国際観艦式を間近に控え、解決策を見いだすための残り時間は少なかった。解決できなければ、中国の海軍力増強に対抗すべく、太平洋での海軍協力体制を築こうとする関係国の努力の一部が無駄になる。それも、たった1枚の布切れをめぐって。

事実とは見る者次第であり、感情は理性より強力で、どの国も過去からは逃れられない――日本にとっての問題はそこだ。旭日旗を掲揚するか、しないかは日韓両国にとってプライドの問題であり、どちらかが面目を失うことになる。

アメリカ人は旗が持つ力を、たぶんどこの国民よりも熟知している。アメリカを訪れた外国人はほぼ例外なく、オフィスビルにも住宅の玄関前にも橋にも、スポーツ試合でも自動車販売店でも、至る所に星条旗がはためいていることに驚く。

星条旗への「侮辱」行為をめぐる議論、時には暴力沙汰も定期的と言っていいほどに勃発する。政治や宗教と同様、国旗は口にする場を選ぶべきセンシティブな話題だ。

南部連合旗という教訓

アメリカには、日本人が旭日旗について考える際に参考にすべき「黒歴史」がある。1世紀半以上前の南北戦争期に、合衆国を脱退した南部11州が掲げた南部連合旗の問題だ。

米国内には、公共の場で南部連合旗を掲揚することを規制している州もある。それでも南部では、この旗が連邦政府や北部に対する抵抗のシンボルになっている。ナショナリストにも愛され、南部連合旗とそれが意味するものを守るためなら戦いも、殺人すらもいとわないという人は今も数多い。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story