トランプ「誰もいなくなった」人事の後で
解任されたり追い出されたりした上級高官は、ほかにも何十人といる。指名から10日でホワイトハウス広報部長を更迭されたアンソニー・スカラムッチ、ロシア疑惑に絡んでFBI長官の座を追われたジェームズ・コミー。その後を受けてFBI長官代行を務めたアンドルー・マケーブ副長官も辞任に追い込まれ、政権発足から10日で解任された司法長官代行もいた。
めちゃくちゃな人事劇からはある意図が浮かび上がる。ロシア情報機関との「協力関係」、平たく言えば国家反逆罪に問われる事態を、トランプは必死になって避けようとしている。
クビになっているのはトップ級だけではない。次席クラスの高位職ががら空きの現状も政権の機能不全の元凶だ。国務省ではこれまでに上級外交官の25%が辞職・退職または解任された。後任はほとんど指名されておらず、トランプ政権は国務省の規模の縮小幅を4分の1から3分の1にする方針だ。
そうかと思えば、誰かの後任にとんでもない不適格者を選ぶ傾向もある。環境保護局(EPA)の長官に地球温暖化を否定する人物を据えたり、エネルギー省が核兵器の管理なども担当することを知らない人物を同省の長官に指名したり......。
そして残されたものは
トランプ政権に首尾一貫した政策というものがあるとすれば、それは孤立主義、ナショナリズム、重商主義だ。WTOやTPP(環太平洋経済連携協定)が体現する自由貿易から、NATOが体現する地域安全保障、国連や気候変動に関するパリ協定が体現する国際法や環境問題の国際的規範まで、アメリカが長らく関与してきた数々の枠組みからトランプ政権は距離を置いている。
だが、この政権に筋の通った政策などない。入れ替え続きで空席だらけの人事の結果としてあるのは支離滅裂と怠慢、政策の実行役が不在のまま大統領の「声明」とツイートで成り立つ政治の在り方だ。
いい例が北朝鮮への態度だ。トランプは「政策ツイート」で金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を「ロケットマン」と嘲り、北朝鮮は「炎と怒り」に直面すると警告する声明を出したかと思えば、一転して米朝首脳会談を「楽しみにしている」とツイートする。
それもこれも、トランプが独り善がりだからだ。この大統領は長めのブリーフィングの際にはじっと座っていることができず、説明に耳を傾ける気もなく、テレビの情報に基づいて衝動的に行動する(視聴するのは超保守のFOXニュースのみ)。彼が部下に求めるのは「あなたは偉大な指導者です」という称賛だけだ。
リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと 2024.10.22
戦術で勝ち戦略で負ける......「作戦大成功」のイスラエルを待つ落とし穴 2024.10.08
カマラ・ハリスの大統領選討論会「圧勝」が、もはや無意味な理由 2024.09.25
共和党バンスvs民主党ウォルズは、あまりに対照的な副大統領候補対決 2024.09.03
全面戦争を避けたいイランに、汚職疑惑を抱えるネタニヤフが「悪夢の引き金」を引く 2024.08.20
大統領への道「勝負の100日間」ハリスの物語と夢のパワーがアメリカの命運を決める 2024.08.01
追い詰められた民主党が苦しむ「バイデン降ろし」のジレンマ 2024.07.20