コラム

トランプ「誰もいなくなった」人事の後で

2018年04月05日(木)11時15分

めちゃくちゃな人事劇の意図はどこに DODDIS77/SHUTTERSTOCK

<政権メンバーの相次ぐ交代と一貫しない政策――トランプ大統領の迷走で現実味を増す「アメリカ抜きの世界」>

有能な諜報員は誰でも、外国の指導者や政府の「計画と意図」を探る。彼らは明日、何をするか。翌月に何が起きるか。それと同時に、いま起きていることとその理由、その行動が持つ政策的含意を理解することも役に立つ。

トランプ米政権の人事は発足当初から迷走続きだが、この状況を諜報員的に分析したら、どんな国際関係の未来が見えてくるだろう? 無能ぶりには思わず笑いたくなるが、笑いはやがて引っ込む。トランプ大統領の下で繰り広げられる混乱劇の産物は恐ろしいものだ。

アガサ・クリスティーの代表作の1つに、登場人物が1人、また1人と殺されていく推理小説がある。何も分からないまま、なすすべもなく。『そして誰もいなくなった』――この題名どおりになりつつあるトランプ政権は、人事をめぐるメロドラマによってアメリカの地位と力をむしばんでいる。

各国の情報機関はほぼ例外なく、米政権の前代未聞の混乱は自国にとって絶好の機会と判断しているはずだ。それが意味するのは、米政治の予測不可能性の大幅な増大。その結果、国際情勢のさまざまな局面で、各国がより大きな危険にさらされることになる。

トランプ自身と政権人事の混乱によって、国際社会でのアメリカの影響力は急激に低下している。トランプ政権は、今後40年間に起こるはずだった現象をわずか1年で実現してみせた。

世界は既に「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」から、複数の勢力圏で成る国際体制へ向かっている。中国がアジアとユーラシア大陸、さらに世界で台頭を続ける一方、西半球ではアメリカが依然として優位。ユーラシア大陸の西端ではヨーロッパが影響力を行使し、中央アジアではインドが地域の覇権を握りつつある。イスラム世界は機能不全に陥り、文明の変革の渦中で宗派対立にのみ込まれている。

トランプ政権の迷走人事は、こうした世界規模の大転換を後押しする形になっている。現政権の閣僚やトップ級高官のうち、1年目に退任した者の割合は34%超。オバマ政権は9%、ブッシュ(子)政権は6%、クリントン政権は11%、ブッシュ(父)政権は7%、レーガン政権は17%だったのに比べると、異常に高い数字だ。

国家安全保障担当の大統領補佐官は2回も代わった。1人目のマイケル・フリンは就任からわずか24日目で辞任し、ロシア政府高官との接触について虚偽の供述をした罪を後に認めた。トランプに「退屈」呼ばわりされた2人目のH・R・マクマスターは3月22日に解任決定。あの「戦争好き」のジョン・ボルトン元国連大使が後任の補佐官に指名された。

3月中旬には、レックス・ティラーソン国務長官の更迭も発表されている。トランプに足を引っ張られ、無視され、けなされ続けた揚げ句の出来事だった。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story