「プーチンさんを悪く言わないで!」という「陰謀論」動画の正体
その推定を補強するために、ピラミッドの底辺の長さとか、その他の数値をいろいろとこねくり回してみると、地球の直径や半径等と近似している、という話になり、そのような高度な設計を行える文明は古代エジプト王朝ではなく、もっとはるかに進んだ超古代文明の仕業に違いないと踏んだ。無秩序に見える出来事や数値を、恣意的に選定してこねくり回せば、あらゆる無関係な物事の中に、「何か普遍の法則」というのが見つかる。しかしそれは普遍の法則などではなく、ただの偶然か都合の良い事実の歪曲である。
世界の出来事を見て、恣意的な部分だけを抽出すれば、それがDS、ネオコン、ユダヤ系のせいだと結論づけることは、たやすいのである。しかしこう反論しても、陰謀論者は決して納得しない。ハンコックの『神々の指紋』には巧妙な逃避地が準備されていた。三大ピラミッドを超古代文明が造ったというのなら、その超古代文明とやらの本拠地はどこなのか。必ず遺跡があるはずだ、という反論をかわすために、『神々の指紋』の結論は、超古代文明の本拠地は南極にあるとしている。
分厚い南極の氷床を全部溶かしてみないと、それが嘘だと完全に証明することはできない。DSの本拠地は無く、課題に応じて仲間がどこかで集まっている、と主張されれば永遠にそれが嘘であることの完全証明はできない。陰謀論者に対し、ファクトでの反撃はあまり意味はない。重要なのはそれが陰謀論である、と言い続けることだ。
最後に、前掲2本の動画に共通して登場する主人公とも言える、元駐ウクライナ兼モルドバ大使だった馬渕睦夫氏について触れなくてはならない。私も良く知っている人物である。というのも、馬渕氏が保守論壇にデビューしたのは2012年。ちょうど10年前であった。
馬渕氏のデビュー作は総和社(現在では出版事業を行っていない)から刊行された『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』(2012年2月)で、こちらは商業的には平凡に終わったが、同じ総和社から出た同氏2冊目の著作『国難の正体―日本が生き残るための「世界史」―』(同年12月)がかなり版を重ねたことで、一躍馬渕氏は保守論壇で頭角を現したのである。
私は同社から、翌年『ネット右翼の逆襲』という本を出した。この本は私の4冊目の単著で重刷されたのだが、この本の担当編集者A氏が馬渕氏と同じ担当編集だったので、何度か馬渕氏にお会いする機会があった。物腰の柔らかい、極めて紳士的な好々爺という印象があった。私と馬渕氏の邂逅は、このA氏がブリッジしたのである。
いま、氏の『国難の正体』を読み返してみると、「東西冷戦も朝鮮戦争もベトナム戦争も、米ソが結託した演出で、つまりプロレスであり、実際は世界的な闇の勢力が背後におり、彼らが脚本を書いていた」という趣旨の事が書いてあった。流石にこの時期、DSという言葉は出てこないが、最初から良くない意味で首尾一貫している。
『神々の指紋』は無害な(とは言っても考古学者は大迷惑だろうが)陰謀論であり、エンタメとして笑って楽しめるが、戦争やコロナといった人命にかかわる陰謀論は確実に有害な陰謀論だ。
※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。
※筆者の記事はこちら。
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