コラム

「プーチンさんを悪く言わないで!」という「陰謀論」動画の正体

2022年03月09日(水)18時56分

その推定を補強するために、ピラミッドの底辺の長さとか、その他の数値をいろいろとこねくり回してみると、地球の直径や半径等と近似している、という話になり、そのような高度な設計を行える文明は古代エジプト王朝ではなく、もっとはるかに進んだ超古代文明の仕業に違いないと踏んだ。無秩序に見える出来事や数値を、恣意的に選定してこねくり回せば、あらゆる無関係な物事の中に、「何か普遍の法則」というのが見つかる。しかしそれは普遍の法則などではなく、ただの偶然か都合の良い事実の歪曲である。

世界の出来事を見て、恣意的な部分だけを抽出すれば、それがDS、ネオコン、ユダヤ系のせいだと結論づけることは、たやすいのである。しかしこう反論しても、陰謀論者は決して納得しない。ハンコックの『神々の指紋』には巧妙な逃避地が準備されていた。三大ピラミッドを超古代文明が造ったというのなら、その超古代文明とやらの本拠地はどこなのか。必ず遺跡があるはずだ、という反論をかわすために、『神々の指紋』の結論は、超古代文明の本拠地は南極にあるとしている。

分厚い南極の氷床を全部溶かしてみないと、それが嘘だと完全に証明することはできない。DSの本拠地は無く、課題に応じて仲間がどこかで集まっている、と主張されれば永遠にそれが嘘であることの完全証明はできない。陰謀論者に対し、ファクトでの反撃はあまり意味はない。重要なのはそれが陰謀論である、と言い続けることだ。

最後に、前掲2本の動画に共通して登場する主人公とも言える、元駐ウクライナ兼モルドバ大使だった馬渕睦夫氏について触れなくてはならない。私も良く知っている人物である。というのも、馬渕氏が保守論壇にデビューしたのは2012年。ちょうど10年前であった。

馬渕氏のデビュー作は総和社(現在では出版事業を行っていない)から刊行された『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』(2012年2月)で、こちらは商業的には平凡に終わったが、同じ総和社から出た同氏2冊目の著作『国難の正体―日本が生き残るための「世界史」―』(同年12月)がかなり版を重ねたことで、一躍馬渕氏は保守論壇で頭角を現したのである。

私は同社から、翌年『ネット右翼の逆襲』という本を出した。この本は私の4冊目の単著で重刷されたのだが、この本の担当編集者A氏が馬渕氏と同じ担当編集だったので、何度か馬渕氏にお会いする機会があった。物腰の柔らかい、極めて紳士的な好々爺という印象があった。私と馬渕氏の邂逅は、このA氏がブリッジしたのである。

いま、氏の『国難の正体』を読み返してみると、「東西冷戦も朝鮮戦争もベトナム戦争も、米ソが結託した演出で、つまりプロレスであり、実際は世界的な闇の勢力が背後におり、彼らが脚本を書いていた」という趣旨の事が書いてあった。流石にこの時期、DSという言葉は出てこないが、最初から良くない意味で首尾一貫している。

『神々の指紋』は無害な(とは言っても考古学者は大迷惑だろうが)陰謀論であり、エンタメとして笑って楽しめるが、戦争やコロナといった人命にかかわる陰謀論は確実に有害な陰謀論だ。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story