コラム

「NO」と言えなかった石原慎太郎

2022年02月15日(火)20時18分

石原には国会議員・都知事時代・その後を通じて、数多くの失言があった。仮に石原の『「NO」と言える日本』を彼の政治観のテーゼと設定して、それが新右翼に類似するとしても、新右翼は原則的に「反米反ソ」を標榜するために、アジア共同体を模索する傾向が強い。それは戦前の右翼...、例えば玄洋社を始祖とする頭山満がそうであったように、西洋近代と対抗するにはアジア人同士(アジア人国家)の団結がどうしても必要であるという理屈とセットになっていた。だから現在の新右翼『一水会』『統一戦線義勇軍』などは、「反米反共」であるが、同時にアジア主義者である。決して中国や韓国を馬鹿にしたりしないし、同じアジア人種への差別に断固反対する。

増長する保守界隈に「NO」と言わず

石原はどうか。都知事になった翌年の2000年4月、陸上自衛隊の式典で石原は演説した。その中で、石原は、「三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している。大きな震災では騒擾事件すら想定される。警察の力には限りがある。(自衛隊の)みなさんに出動していただいて、災害だけでなく、治安の維持も大きな目的として遂行してほしい」と述べたことが大きく報道された。所謂「三国人発言」である。ここでいう三国人とは主に朝鮮半島出身者(在日コリアンを含む)や韓国人である。彼らが犯罪を率先して行っているというのは、ネット保守が好む陰謀論をそのままトレースしたものだ。断っておくが新右翼は、アジア主義の立場から絶対にこういった用語を使わない。物議かもした石原の「三国人発言」だが、この一件を以ても、石原は新右翼の系統に属させることは難しい。

石原は、1999年に東京都知事になった段階で、すでに押しも押されぬ大著名人であり作家であった。それがゆえに、ゼロ年代から顕著になる「個人としてのネット発信」という事自体、ほとんど行わなかった(おそらく、ネットに精通する参謀がいなかったのか、それ以前にネット活用の必要性を感じていなかったのであろう)。だからネット保守とは親和性があるように見えて接点が希薄であった。

点景としての石原、夕刻としての太陽が石原であった。むろん、前述したように尖閣諸島基金の件について、刹那的にネット保守に喝さいを浴びたことはある。しかしその喝采は、きょうびの所謂「保守系言論人」が十八番である、保守系動画への出演、SNSの駆使等からほど遠かったために、熱しやすく冷めやすいチーズトーストかピザの類であった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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