コラム

「NO」と言えなかった石原慎太郎

2022年02月15日(火)20時18分

『「NO」と言える日本』の後半では、アメリカ大統領がレーガンから、同じ共和党のブッシュ(父)に交代したことに触れられている。出版年月日から見て、ブッシュ(父)の当選(1988年米大統領選...ブッシュ(父)は、民主党大統領候補のM・デュカキスに圧勝した)を汲んでの事であろうが、盛田との対話はここで終わっている。

アメリカは1980年代に製造業で圧倒的に、完膚なきまでに日本に叩き潰されたので、ブッシュ(父)、その後のビル・クリントンを通じて、IT・金融等という新しい活路へと脱皮し、そののち所謂「GAFA」が誕生して世界を席巻した。日本はバブル崩壊以降も、80年代の成功体験を忘れられず、産業構造の転換や生産性向上の努力を怠り、いつまでもジャパン・アズ・ナンバーワンの時代から自己改革ができなかった。『「NO」と言える日本』の冒頭で、いみじくも石原が口火を切り、盛田も同意した日本の半導体技術は、現在見るも無残なことになっているのは読者諸兄もご存じのことであろう。

「夕刻の太陽」としての石原慎太郎

"技術立国"日本は、『「NO」と言える日本』の時代、半導体シェアで世界の50%近くを占めていたが、その後、韓国・台湾・中国等に猛追され、現在ではその比率は10%に満たない。石原が「(日本は国力・技術力があるのだから)アメリカにNOと言わないのは至極おかしい」と提唱してから、たった20年で日本の現状はこんな風になった。一人あたりGDPで、1990年代中葉に日本はルクセンブルクに比類する大富裕国だったが、現在ではイタリアやスペインと同等に零落している。アジアの中でも、シンガポールや香港に劣後する。

産業転換の新陳代謝が遅いので、長引く構造不況が発生し、実質賃金は韓国未満という統計もある。もはや日本は唯一といってよい「経済・技術」というインセンティブまで失って久しい。こうした状況の中で、日本が退潮していくただなか、1999年に石原が都知事になり、さらに時が経って2012年に前述の尖閣を巡って、保守界隈から喝さいを浴びせられた事実は、正に石原が「夕刻の太陽」であることを物語っていよう。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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