コラム

高市早苗氏はなぜ敗北したか―ネット保守の過激すぎる応援がアダに

2021年10月01日(金)21時42分

ここでいう中国人とは、中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)報道官のことである。華報道官と河野氏のツーショットに於いて、河野氏の背広につけられていたバッジが「天安門広場を模したもの」として、中国への恭順の証として拡散されたが、実際には日中韓外相会談に同席した韓国の康京和(カン・ギョンファ)外務大臣(当時)も類似のバッジをつけており、恐らく来賓用の特別な微章と思われる

或いはフィリピン・マニラでの日中外相会談(2017年)の際、中国の王毅外相と河野氏のツーショットが切り取られ、またもや河野氏の背広につけられていたバッジが、王毅外相と同じもので、それは「毛沢東バッジ」であると断定され、中国への恭順の証として大きく拡散されたが、実際にはASEAN外相会談で各国の外相が同様に装着する微章であり、完全な間違いであった。

しかもこの時、河野氏は王毅氏に対し「中国には、大国としての振舞い方というのを、やはり身に着けていただく必要がある」と強硬姿勢を取り、このときむしろネット保守は前述した駐日韓国大使に対し「無礼」と言った時と同様、「よく言った!」と賞賛され、「河野色を出した」と評価されたのだが、たった4年前の事も忘却しているのか、はたまた意図的に黙殺しているのかは定かではない。(参考:河野氏めぐり拡散した"毛沢東バッジ着用"はデマ 「拡散過程で誤情報に」専門家も警鐘,日テレNEWS24,日本テレビ)

8】高市氏自身が沈静化を図るも時すでに遅し

総裁選中、ネット空間で急速に広がった河野氏への批判・攻撃が、流石に過激であり看過できないと感じたのか、当の高市氏が自身への支援とセットになって展開されている過激な河野批判について、2021年9月20日に自制を求めるツイートを行った。これに関する記事が以下である。


"(*高市氏は)支持者による政策批判を超えた他候補への罵詈(ばり)雑言があるとの報告を多く受けているとした上で、「総裁選は議論していく場でもあり、例え正反対の意見であっても尊重しあう場です。各候補者も、その支援者も決して敵ではありません。他候補への誹謗中傷や恫喝(どうかつ)や脅迫によって確保される高市支持など私は要りません」などとツイートし、支持者らに節度ある行動を求めた。"(2021.9.28,朝日新聞,*部分筆者)

ここでいう他候補への罵詈雑言とは、本稿で述べてきたとおり河野氏を指す。こういった第三者からみて、余りにも過激な河野批判がセットとなってくり返されることが、却って高市氏の印象を悪くし、党員・党友票へ影響が出かねないと懸念したものであろう。

しかし一度燃え上がったネット保守による河野批判は、まったく沈静化せず総裁選が終わった現在に至るまで行われている。高市氏が第一回投票で3位に沈んだ事実に対し、「不正選挙」という呟きが早くも多く観測されているのだ。ここまでくると、2020年大統領選挙で敗北した前大統領トランプ氏の支持者が、バイデン政権誕生に際して「不正選挙である」と叫んだのとうり二つである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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