コラム

高市早苗氏はなぜ敗北したか―ネット保守の過激すぎる応援がアダに

2021年10月01日(金)21時42分

彼ら熱心な支持者がそう叫べば叫ぶほど、穏健で常識的な支持者は高市氏から離れていく。そして穏健で常識的な支持者の人口こそ、政治的には「もっとも分厚い中間層」なのだ。ここを取りにいかなければ、総理総裁になることは出来ない

高市氏が危惧した通り、議員票こそ健闘したものの、党員・党友票の獲得において19%しか得られず、こうした過激な河野批判が、高市氏敗北の直接的な要因を作ったと言える。まさに「親方想いの主倒し」とはこの事だ。

高市氏がいくら掣肘しても、「他候補への罵詈雑言」とセットに展開される高市支持を抑え込むことはとうとうできなかった。いや抑え込もうとすればするほど「高市さんはけなげに頑張っている」として彼らは河野批判にますます血道をあげたのではないか。それほどまでにネット保守は、高市氏へ滾る熱狂の想いを募らせたのだ。しかし一旦発射されたロケット砲が地上に軟着陸できないのと同じ様に、どこまでもネット保守は過激に河野批判を繰り返した。

9】穏健保守派の危惧が的中

保守系評論家の三浦小太郎氏(高市氏支持を明言)は、このような無秩序な高市支持のネット保守に向けて2021年9月16日、次のように自身のファイスブックに投稿した。


"高市議員を支援する以上、他候補の政策よりも正しい、という言論を行うのも当然です。

ただ、他の立候補者を、必要以上に批判したり、また攻撃することは、必ずしも高市議員にプラスに働くとは思えません。これは自民党内の選挙であり、高市議員は勝つためには(仮に勝てなくても次につながるような結果を出すためには)今、例えば河野議員、岸田議員を支持している自民党員にも食い込むような選挙戦を行わなければならないはずです。

私たちが何も声を控える必要はないかもしれませんが、高市議員の政策を評価し、宣伝し、他の自民党員に支持を訴えるときに、他の議員との「比較」はいいのですが、「罵倒」「非難」と誤解されかねない言葉はできるだけ自重することが、今は必要ではないかと考えます。"

これを読んで、何を当たり前のことを言っているんだ、と思う読者は少なくないだろう。しかし「こんな当たり前のことを言わなければならない」という状況に、全員では無いが高市支持のネット保守は陥ってしまったのである。結果は三浦氏が懸念した通りになった。とりわけ党員・党友に対してはその通りになった。

高市氏は一時期、岸田氏を猛追して2位も視野に入る、という観測がなされた(結局、岸田氏は第一回目の投票時点で1位だったのだが)。この希望を脆くも打ち砕いたのは、党員・党友票の不振である。高市氏は、不幸なことに自らの支持者によって、最大のチャンスをつかみ損ねたのである。

一度ついた政治家へのイメージは中々払拭することは出来ない。「親方想いの主倒し」を超克しなければ、高市氏は重要閣僚に就くことはあっても、総理・総裁候補としての「次」には、極めて憂鬱な暗雲が立ち込めているだろう。


※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、突っ込み警戒感生じ幅広く

ワールド

イスラエルが人質解放・停戦延長を提案、ガザ南部で本

ワールド

米、国際水域で深海採掘へ大統領令検討か 国連迂回で

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに最大5.98兆円を追
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story