自民党重鎮たちの失言を振り返ればわかる、これは「党の体質」だ
森氏と並んで失言王の異名をとる麻生太郎氏は最もひどい。麻生氏は吉田茂首相を祖父、鈴木善幸首相を岳父に持つ政界きってのサラブレッドで、地元福岡県飯塚市に強烈な地盤を持つ「麻生グループ」の御曹司であるのは自明である。
有名な話だが、麻生氏が初めて衆議院議員に出馬した1979年、福岡県飯塚市駅前で街頭演説し「下々の皆さん」と失言した。このとき麻生氏は39歳。働き盛りの青年層で決して老人などではない。
二階氏と同じく自民党幹事長を務めた野中広務氏と作家の辛淑玉氏の対談本『差別と日本人』(角川書店)の中で、野中氏は麻生氏のこの失言を「彼は何の疑問もなしにそんなことを言う。不幸な人だ」と酷評している。
自らが特権階級のサラブレッドであるという尊大な自意識を持ち、市井の市民を「下々の皆さん」と呼ぶ差別的価値観は、麻生氏が加齢によって権威主義的な性格を持ったのではなく、青年時代から存在していたものだ。そういった歪んだ世界観を持ったまま、そのまま加齢しただけで、その他にも麻生氏の様々な失言は、権力者になったから形成されたがゆえなのではなく、「もともと」地金として彼の中に存在したのである。
何度も国際問題化
森氏、二階氏、麻生氏とやり玉に挙げられている三人を切り取っただけでもそうだが、過去の自民党の重鎮も五十歩百歩である。
例えば、小派閥・中曽根派の領袖でありながら長期政権を築いた中曽根康弘首相は、総理在任中の1986年に「米国には黒人やプエルトリコ人、メキシコ人がいて、日本より知的水準が低い」と発言して重大な人種差別と批判された。すわアメリカ下院から公式謝罪を求める決議が出されるという国際問題になった。
この時の中曽根氏は68歳。「老害」というにはまだまだ若い。また同じ年、中曽根首相は「日本は単一民族」と失言し、北海道ウタリ協会から不快感の表明を受けている。
1988年には竹下登内閣下で、タカ派で知られる渡辺美智雄氏(当時・自民党政調会長)が「米国には黒人だとかがいっぱいいるから、あすから破産だといわれても、アッケラカンのカーだ」と失言して、アメリカ黒人議員連盟から抗議文が送られ、竹下首相が遺憾の意を表する大問題になった。当時渡辺氏は65歳。「BLM」運動がアメリカで燃え上がる中、21世紀に総理大臣や政調会長がこんな発言をしたら内閣は総辞職だろう。
1991年になると、宮澤喜一内閣下で外務大臣となった渡辺氏はまたも「日本は単一民族」と発言して北海道ウタリ協会から抗議され、政府は「我が国は単一民族国家ではない」と公式に否定する大騒動となった。
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