コラム

「勝ったのはトランプ」と一部日本人までが言い張る理由

2020年12月17日(木)20時13分

トランプが勝ったのか。それともバイデンが勝ったのか。アメリカ人有権者が決定して決着した問題で、投票権を持たない海外のいち集団が分裂・対立するという奇妙極まりない現象が出来するのは、世界広しといえども日本の保守派だけである。彼らは、CNNをはじめとする外電はもとより、日本の新聞も雑誌もテレビさえも見ないのだろうか? まるで「地球は平面で、地の果ては滝つぼになっている」と信じている13世紀の中世人のようだ。

バイデンの勝利を認めよ、という日本の保守派はトランプの勝利を信じる一派によって滅多やたらに攻撃され、トランプ勝利の芽はある、という保守派はこちらもバイデン勝利容認派から叩かれる。日本の保守界隈ではこういった、実に低レベルの論争によって分裂が起こっているのである。

私は、こういった日本の「トランプが勝ったか、負けたか」という実に下らない低レベルの論争と分裂に際して、ある歴史的事実を思い起こした。それは第二次大戦後、ブラジルに移民した日系移民が、大日本帝国の戦争敗北を認めるか、認めないかによって二派に分かれ、それぞれが自らを「勝ち組」「負け組」と称して対立した事実である。

他国の選挙に何様か

当然、通信技術が未発達な75年余前の当時、日本帝国の連合国に対する無条件降伏という事実が、日本から見て地球の裏側にあるブラジルに正確に伝わらなかったことがその対立の一因であった。しかし、ニューヨークやフロリダ発の情報が1分としないうちに日本にも伝わる現代にあって、終戦直後のブラジルにおける「勝ち組」「負け組」対立構造と一見似ているように思える「トランプ勝ち組」「トランプ負け組」論争は、はるかそれ以前の低次元の児戯と言える。

「トランプは勝ったのか、負けたのか」。CNN(日本版)をみれば2秒で判明する結論を、日本の保守派がこれほど執拗に論争しているのは、本当に滑稽な知的怠惰であると思える。「トランプにも勝つ見込みはある」と2020年12月上旬の段階でのたまう日本の保守派は、「空想主義者」として社会通念上一笑に附されたが、これに比して「バイデン勝利を認め、トランプの敗北を容認するべきだ」とする、くだんの日系ブラジル人社会における「負け組」が冷静で現実的だ、というのも同様に滑稽な話である。

他国の選挙結果を認めるも認めないも、日本人には決定権は無い。大上段に構えて、何の権利があって「バイデンの勝利を認めるべきだ」というのか。次期大統領を決めるのはアメリカの有権者であって日本の保守派ではない。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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