コラム

「勝ったのはトランプ」と一部日本人までが言い張る理由

2020年12月17日(木)20時13分

「バイデンは不正選挙を行っており、トランプに勝利の芽はある」と最後までトランプ勝利を疑わない保守派は、2021年にバイデン政権が発足したあとでも「民主的正当性がない」などと怪気炎を上げるであろう。そもそも、彼らが有権者でもないのにアメリカ大統領選挙でここまでトランプ氏の勝利の可能性にこだわり、バイデンの不正に拘泥するのはなぜか。

それはひとえに日本の保守派が、「反中」という一点で、トランプを救世主と見做しているからである。トランプ政権は2016年に発足したが、それ以前、つまり2012年末に発足した第二次安倍政権は、「尖閣諸島における公務員常駐」などと同年自民党総裁選挙(VS石破茂)の段階で都合の良いタカ派的発言をしたものの、民主党からの政権奪取後はその実質的公約を一切反故にした。これがまるでマグマだまりのように保守派の中に手ぬるい「反中政策」への不満として残った。

ここで出てきたのがトランプであった。トランプ政権は2018年から米中対立を本格化させ、進歩的といわれるCNNやその記者を執拗に攻撃し、2020年のコロナ禍にあってはコロナウィルスを「武漢ウィルス」と呼び変えて、中国・武漢の研究所から病原ウィルスが流出した証拠を掴んでおり、コロナ禍における損害を中国に請求する、などのトンデモ論を世界中に公言しだした。

強きにすがる事大主義

反中、反進歩メディア、陰謀論を好む日本の保守派は、第二次安倍政権より格段に強烈にそれを発するトランプ政権に心酔し、トランプが2016年共和党予備選挙で「在日米軍の撤退や、在日米軍駐留費の日本側全額負担、および対日貿易不均衡是正」などといった過酷な対日要求発言の事実を完全に黙殺し、世界の超大国・アメリカのトップたるトランプの強大な権勢に縋りついた。

簡単に言えばこれは強き者にすがるだけの事大主義であり、日本の保守派は第二次安倍政権では物足りなかった対中強硬政策についての上位互換としてトランプを見つめたのである。

おりしも、2020年8月には安倍前総理が辞意表明し、9月には菅内閣に交代した。それまで金科玉条の如く、槍が降っても第二次安倍政権を支持してきた保守派には心理的空白が出来た。

菅義偉内閣は「安倍政権を踏襲する」と言いながら、憲法改正や嫌韓・反中では、あまり積極的なイデオロギーを持たないからである。そうなると日本の保守派は、日本の総理を通り越して安倍政権の上位互換としてトランプを見つめ、その必勝を祈願することになる。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

メキシコのインフレ率、10月減速でも市場は慎重な姿

ビジネス

英中銀、利下げスタンスの表現変更「過度な解釈控える

ワールド

米高官、石油・ガス購入拡大へ欧州に圧力 「エネ移行

ビジネス

健全調整か本格下落か、投資家の手掛かり模索続く=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 9
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 10
    「豊尻」施術を無資格で行っていた「お尻レディ」に1…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story