ナイキCMへ批判殺到の背景にある「崇高な日本人」史観
更には保守界隈、ネット右翼界隈で盛んなのはこれに加えて「日本人が人種差別に立ち向かった」とする一種の神話がまかり通っていることだ。この中で必ず出てくるのは、第一次大戦後のパリ講和会議(1919年)で、戦勝国となった日本が当時の国際連盟に提出した「人種的差別撤廃提案」である。つまり第一次大戦後、戦勝5大国(米英仏伊日)のなかでの唯一の有色人種が日本であった。日本は当時とりわけ欧米で根強かった(黄禍論等)有色人種への差別撤廃の為に講和会議でこの事案を持ち出したが、他の列強に拒否されて沙汰闇になった...という事実である。これを保守派やネット右翼は「必ず」といってよいほど「崇高な日本人」史観の中に登場させ、「日本民族こそが差別撤廃を願った」として、日本人の道徳性と正義感、ひいては無差別性を強調しているのである。
いかにも、パリ講和会議で日本が「人種的差別撤廃提案」を出したことは事実である。が、その当時(1919年)、日本は朝鮮半島と台湾等を植民地支配し、国際的には「人種差別撤廃」を謳っていたが、実質的には他民族を服属させ、支配していた。要するに1919年の日本政府による「人種的差別撤廃提案」は政治的ポージングに過ぎず、実際は人種差別を主張する当事者である日本が他民族への搾取と差別を行っていたというに二枚舌・矛盾を解決できないでいた。そして昭和の時代に入り、大陸侵略を目論む日本軍部・政府等は満州事変を経て「同じアジア人」である中国侵略と、「大東亜共栄圏」の下、東南アジアの被欧米植民地へ軍を進めていったのは既知のとおりである。
差別をしない日本民族、のウソ
事程左様に、「崇高な日本人」史観とは、全く根拠のない空想であると喝破せざるを得ない。そもそも日本民族は、明治国家建設以前の近世期に於いてさえ、「他民族」たるアイヌ等への圧迫(土地・権益略奪)と搾取(不当交易)を繰り返してきた(江戸期・松前藩等)。そういった歴史的な日本人の差別(加害者)の事実がありながら、「日本には欧米のような人種差別問題は極めて少ない~」というのは、全くの妄想・歴史改変でしかない。また更にさかのぼれば、戦国の世が終わって琉球王国を薩摩藩が服属させ、明を経て清朝との二重朝貢国としながらも実際は日本の服属地としておいた数次の「琉球処分」を如何に見做すのか。「崇高な日本人」史観にはその答えが全く無い。
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