コラム

安倍政権の7年8カ月の間に日本人は堕落した

2020年08月31日(月)16時30分

安倍総理が辞意を表明して以降、保守派からはすわ「第三次安倍政権」待望論や、「病気療養後の院政」を期待する声が溢れている。本当に情けないことだ。安倍総理自身が「(以降の日本の諸課題を)強力な新体制にゆだねる」と言っているのに、安倍総理を思慕する大衆や自称言論人が、すでに旧体制への捨てきれない未練と、浅はかな追従精神に縋り付いている。総理を辞した安倍総理には、彼自身が辞職会見で言ったように一代議士として職責を全うすればよろしい。しかし7年8カ月という、短いような長いような期間続いた長期政権の下で、日本大衆はその知的弾力性を失い、精神思考は硬直し、自発的な権力への追従という、笑えない精神構造を保持し続けているように思える。

内心にたぎる熱情はどこへ

ポスト安倍がどのようになるかは分からないが、日本社会の根本的病理とは、この批判精神の欠如と権力への無批判にこそある。まさしくこの7年8カ月という絶妙な権力の時間的長さは、1945年8月の敗戦から、1952年のサンフランシスコ講和条約まで日本を間接統治したGHQの約7年間の統治期間と重なる。

日本は52年のサ条約で完全に主権を回復して独立したにもかかわらず、占領軍の主軸たるアメリカの意向を慮って、対米追従の政策をつづけた。しかしそれでもと言おうか、かつての保守の自民党政治家には、面従腹背でいつしか対米自立を遂げるという気骨があった。「戦後政治の総決算」を掲げた中曽根は米大統領レーガンと「ロン・ヤス関係」の蜜月を構築したが、それは冷戦下の国際情勢の要請であって、彼の内心のたぎる熱情はあくまでも対米自立であった。

このような面従腹背の気骨すら失い、ひたすら権力の広報を信じ、「中立です」と標榜して事実上権力礼賛を続ける人々の精神構造を根底から改良しなければ、ポスト安倍が誰になろうと日本人の知的堕落は継続されるだろう。そしてそうなった場合、それこそが安倍7年8カ月が残した最大の負の遺産である。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、6月以来の高水準=ベー

ワールド

ローマ教皇の容体悪化、バチカン「危機的」と発表

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story