コラム

岸田政権は潔く国葬を撤回せよ

2022年09月15日(木)16時17分

ただし、葬儀と政治的祭典を混同することで感情に訴える国葬推進派の作戦をもってしても、国葬賛成派が劇的に増加することないだろう。興味深いのは、国葬への不信が、安倍政権以来、自民党が行い続けてきたことへの不信とパラレルだということだ。

たとえば、国会での議決を回避して重要事項を閣議決定で済ましてしまうことは安倍政権下でも行われてきた。憲法53条による臨時国会の開催要求を無視しているのも安倍政権からの悪癖だ。さらに国葬への予算が膨らみ続けているのは、オリンピック予算が膨らみ続けてきたことを彷彿とさせる。

「弔問外交」なのだと安倍元首相の国際的な人望を皮算用して失敗することも、四島返還に期待をもたせ、多額の経済的支援を行った結果、一島も還ってこなかったロシアとの北方領土返還交渉という前例がある。もし政府が国葬への支持を広めたいなら、まず安倍政権から続く自民党政権の悪癖を反省し、まっとうな立憲政治へと立ち戻る必要があるだろう。

今からでも撤回するのが身のため

とはいえ、そもそも国葬というものは無理をして執り行うべきものでもない。ここまで収拾がつかなくなってしまった安倍元首相の国葬は、今からでも取り止めてしまったほうがすっきりするのではないか。慣習通り内閣と自民党の合同葬という形式にして、招待客や規模を縮小して執り行うことにすれば、落としどころは見えてきそうだ。9月12日、鎌倉市議会は国葬実施撤回を求める意見書を採択した。9月9日には鳥取県日南町議会が国葬中止を求める決議案を可決している。

このように、地方自治体レベルでも、国葬の見直しを求める意見が出てきている。国葬を潔く撤回する決断力が岸田首相には求められる。結果的にそれは、政権側にとってもメリットがあることだと思うのだが。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story