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ドラマ『新聞記者』で感じる日本政治へのストレス
この意味で、『新聞記者』のドラマは、むしろ映画『ドント・ルック・アップ』(2021)やドキュメンタリー映画『コレクティブ 国家の嘘』(2019)と比較されるべきだろう。『ドント・ルック・アップ』は地球を滅ぼす巨大な隕石が接近しているにもかかわらず、隕石を利用して富を得ようとする金持ちや政治家の意向でまともな対応をしてもらえない......というストーリーで、現在のコロナ危機あるいは環境危機に対してなお資本主義を優先する政治を一種のコメディとして描いている。鑑賞したあとは笑いとともにやるせなさが襲ってくる映画だ。
『コレクティブ 国家の嘘』は、以前の記事で取り上げたので詳しい説明は割愛するが、ルーマニアの医療汚職事件を扱っている。若い大臣が改革に取り組むが、選挙で勝利したのは結局は腐敗した利権勢力であった。
日本の市民社会にない成功体験
『新聞記者』も含めこうした作品は、危機や不正が目の前にあるのに、それを隠蔽しようとする力には何をやっても勝てないという悲愴感に満ちている。これは、結末が悲劇的に終わっているからそう感じるのではない。この状況を改善するための活路がさっぱり見出せないところに絶望を感じるのだ。
韓国映画『タクシー運転手』(2017)では、主人公らは光州事件の虐殺を撮影することに成功するが、少なくとも韓国国内では虐殺は政府よって隠蔽される。しかしその映画をみる我々は、光州事件の虐殺が世界中に報道され、民主化後の現在の韓国では、事件を歪曲したり擁護したりすることが法によって禁じられるまでに至ったことを知っている。だから、この映画には希望がある。映画中で起こった様々な悲劇を(もちろん個々のエピソード自体はフィクションだとしても)、我々は現実中で意味付けることができる。不正義は後で正されることを知っているからこそ、登場人物たちの生は報われると感じることができるのだ。
だが、『新聞記者』はこうした成功体験のモデルを持たない。昨年11月の選挙では森友問題の当事者でもある維新の会が躍進した。ドラマの最後で希望と共に始まる自殺した公務員をめぐる裁判は、現実の世界では2021年12月、国が遺族の要求を認諾するというかたちで結審した。政府は1億円を遺族に支払うことと引き換えに、あらゆる事実を闇の中に葬ることを決めたのだった。
政治的効果は直ちには期待できないが
日本の映画やドラマは、特に近年は、他国に比べ極端ともいえるレベルでアクチュアルな政治問題を描くことを避けてきた。その意味で現在の政府にとって明白に都合が悪いと思われる政治腐敗をここまで直接的に描いた創作が、Netflixという外国資本とはいえ大手の製作で、日本人主体でつくられたことは画期的だといってもよい。しかし、このような創作がつくられたからといって、直ちに現実の政治の中に存在する腐敗を正す契機になるかといえば、悲観的になってしまう。
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