コラム

岸田新政権は「古い自民党」にしか見えない

2021年10月05日(火)14時25分

しかし今回、岸田新総裁が「新しい自民党」を冠し、経済政策の方針転換を表明したことによって、疑似政権交代という観点が復活した。確かに、安倍前首相が推す高市候補を主流とし、岸田新総裁を反主流としてみれば、経済政策の違いもあり、何か政権交代が起こったようにもみえる。

だが、俯瞰的にみれば高市候補は党内右派勢力の代表にすぎず、世間的には人気の河野候補こそが党内力学的には反主流で、岸田新総裁が相対的な有力候補だった。政策の違いというより、人間関係が重要なのだ。有力派閥同士が本気で政権を取りに行く権力闘争がなくなったとしても、利権分配装置としての派閥は残る。自民党議員にとって総裁選とは、自民党の利権を最大限確保し、しかもその利権にいかに自分が与れるようにするか、という盛大な茶番劇なのだ。菅前首相の不人気により期せずして行われた今回の総裁選は、茶番にしては難しい選挙であり、だからこそ岸田新総裁は世間体を気にする余裕もなく露骨な論功行賞と、いわゆる「入閣待機組」を一掃するような、派閥順送り人事を行っているのだ。

化けの皮が剝がれる前に総選挙?

岸田首相は、次の衆議院選挙の日程を10月31日投開票と決めた。それまでは11月上旬の投開票が有力とみられていたが、この決定によって日本国憲法下最短の選挙日程となった。任期満了の空白期間を短縮するためとしているが、そうであるならば、憲法に反して臨時国会も開かず、一政党のトップを決めるにすぎない総裁選を長々とやっていたのは何だったのだろうか。この決定は明らかに、化けの皮が剥がれないうちに選挙をしておきたいという党利党略の産物だろう。

岸田首相が本当に誠実な人物で、政治への信頼を回復したいと思うのならば、任期満了ギリギリになったとしても、まずは公約した政策の着手につとめ、政権の本気度を示すべきだろう。むしろそうしたほうが政権への支持はより高まったはずだ。

しかし岸田首相はその選択肢を取らなかった。選挙日程が短縮されたことにより、首相はG20への出席を取りやめた。重要な外交日程をキャンセルしてまで、選挙を早める必要があったのだろうか。

結局、岸田政権もこれまでの自民党政権の延長線上にしかないということだろう。投開票が長引くほど、新役員や閣僚の、未解決の疑惑が思い出されてくる。そうしたボロが出ないうちに逃げ切りたいというだけなのだ。残念なことに、自民党はまったく変化していないのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story