コラム

岸田新政権は「古い自民党」にしか見えない

2021年10月05日(火)14時25分

そもそも岸田文雄は安倍政権下で外相など要職を務めており、少なくとも安倍晋三が規定を変えて2018年の総裁選に出るまでは、岸田禅譲が既定路線だとされていた。岸田は2018年の安倍三選で支持を表明するタイミングを誤り、また2020年の総裁選でも有力候補として急浮上した菅前首相に大敗するなど最近の関係はうまくいっていない印象もがあったが、それまでは安倍前首相とは親しい関係にあったのだ。2018年の西日本豪雨の際、「赤坂自民亭」で仲良く酒を酌み交わす二人の写真は記憶に新しいだろう。

野党に似た政策もあるが

岸田総裁は総裁選中から、安倍・菅内閣で進められてきた新自由主義的な経済政策を批判し、再分配重視の経済政策を掲げていた。またコロナ対策では、これまでの政権が消極的だったPCR検査の大幅な拡大を主張している。野党が掲げる政策にも似た、こうした政策をもし本当に実行したなら、菅内閣から岸田内閣への変化は、「疑似政権交代」と呼ぶこともできるだろう。

しかし、党や内閣の要職が安倍・麻生ら旧体制の「キングメーカー」たちの息のかかった人たちで占められたとき、果たして手厚い分配を標榜する岸田政策は実現可能だろうか。たとえば麻生前財務相は一貫して給付金などの積極財政に否定的だったが、先述したように新しい財務相は彼の義弟なのだ。岸田首相は、新自由主義改革の温床となってきた「成長戦略会議」をはじめとする審議会を廃止すると述べた。しかし、それに代わって設置するとしている審議会の概要はいまだ定まらず、選挙後には再び新自由主義的な民間議員を含む会議が復活しているかもしれない。

また、「政治不信からの脱却」訴えながら、森友や加計、桜を見る会など、前政権から続く不祥事についての再調査を、岸田新首相は否定している。長期政権の副作用として生ずる政治の腐敗を一掃させることは政権交代の大きな役割だが、岸田政権ではその効果は期待できそうにない。夫婦別姓や同性婚といった社会政策にも慎重姿勢を見せており、それらを強硬に否定する高市政調会長の誕生により、実現可能性はなくなった。

「疑似政権交代」は起こらない

かつての中選挙区時代、自民党の権力闘争と派閥争いは確かにリアルなものがあり、疑似政権交代と呼べるような権力者の交代もある程度見られた。しかし小選挙区制度になり執行部への権力集中が進む中、多元的な派閥力学を前提とする疑似政権交代は起こりえないとされてきた。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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