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「報道が目を光らせなければ、国家は国民を虐げる」──映画『コレクティブ 国家の嘘』の教訓
大手メディアが機能不全に陥るなか、ひとり追及を続けるスポーツ新聞記者のトロンタン ©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019
<一度は腐敗した政権を転覆できたルーマニア市民が、選挙で再び腐敗政党を勝たせてしまったのはなぜか。総選挙前に観るべき映画>
2021年アカデミー賞のノミネート作品で、世界各国のドキュメンタリー系の映画賞を数多く受賞したルーマニアの映画『コレクティブ 国家の嘘』が、10月2日(土)より、シアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国の映画館で公開される。事前に観る機会があったので、本コラムで紹介したい。
『コレクティブ 国家の嘘』は、ルーマニアで実際に起きた医療スキャンダルについて取り扱ったドキュメンタリーだ。2015年、「コレクティブ」というクラブで火災が発生し、多くの死傷者を出した。火傷患者たちは病院に送られるが、比較的軽症な者も含めて多くが亡くなってしまう。理由は医療体制の杜撰さにあった。スポーツ新聞「ガゼタ・スポルトゥリロル」のジャーナリストは、ある製薬会社の薄められた医薬品がルーマニアの多くの病院に納品されており、それを国家も黙認していたことを突き止め、医療行政、病院、製薬会社、医学界を巻き込んだ腐敗事件を追求していく。
製薬会社の不正医薬品問題
ジャーナリストの取材により、製薬会社の医薬品問題が明らかになっていく。病院の医者たちへのリベートを介して、10倍に希釈された消毒液などを納品していたのだ。当然院内感染もこの間多発していながら、医療行政はそれを放置していた。保健相もまた医療業界と癒着していたからだ。
事実が言い逃れ不可能なほどに明らかになると、製薬会社の社長は不審な死を遂げる。政治を巻き込んだ大スキャンダルと関係者の死。既視感がある状況だが、怒ったルーマニア市民はデモを起こし、当時の保健相は辞任に追い込まれる。
当時の内閣は、無所属のチョロシュ内閣だった。「コレクティブ」の事故によって、社会民主党政権が倒れたあとに事態を収拾するためにできた内閣だ。ルーマニアの社民党は、表向きは中道左派だが、前身は1989年の革命で倒された独裁者チャウシェスクの与党であり、長年にわたって各利権団体と腐敗した関係を築いており、汚職スキャンダルが絶えない政党だった。総選挙を経てはいないので、チョロシュ内閣はなお社会民主党の信任を必要としていた。
新しい保健相の苦悩
製薬会社のスキャンダルと社長の死という、ここまでの粗筋だけでもドキュメンタリーが一本つくれそうな内容だが、これはプロローグにすぎない。この映画の本番はここからなのだ。チョロシュ内閣で、新たに保健相に任命されたヴラド・ヴォイクレスクは、大臣になる前は患者の権利のために活動しており、見た目からして善良さの塊のような人物で、何とも頼りなくみえる。
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