コラム

能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結果を発表

2024年05月21日(火)21時25分

一方、海溝型地震は、海のプレートが陸のプレートの先端を引き込みながら沈むときにひずみがたまり、それが限界に達すると陸のプレートが一気に跳ね上がることが原因です。 接するプレート面が広ければ広いほど、ずれて動く距離が長ければ長いほど、地震の規模は大きくなります。

また、内陸型でも海溝型でも、大きな地震では一般的に本震と余震が観測されますが、小さな地震が連続する群発地震では両者の区別がつかないことがしばしばです。さらに群発地震では、発生のきっかけや地震回数の増減の原因が未だによく分かっていません。

気象庁のデータによると、令和6年能登半島地震の始まりとされる20年12月は、有感地震(震度1以上の地震)が1回もありませんでした。その後、21年の有感地震は70回、22年は195回、23年は241回と発生回数は加速的に増加し、24年は5月17日までの半年足らずの間に1834回も発生しています。

newsweekjp_20240521103840.jpg

「令和6年能登半島地震」の最大震度別地震回数表(気象庁発表、24年5月17日16時時点)

季節による環境変化が地球の基礎構造に影響を与える?

今回、MITの研究者たちは能登半島の群発地震について、環境要因が地震の性質や発生に関わっていたり、地殻変動と相関性があったりするかどうかを調べるために、気象庁が公表している過去11年間の能登半島の地震活動データを精査しました。

その結果、地震が活発化する20年以前は、地震の発生は散発的で環境要因は無関係に見えました。対して、地震活動が活発化した20年後半以降は、地震波の伝わる速度が季節と関連性があると解析できました。

研究チームは、季節による環境変化が、群発地震を発生させるような形で地球の基礎構造に影響を与えるのではないかと考えました。具体的には、雨や雪がよく降る季節は地下の「間隙流体圧」(岩盤内の隙間や割れ目を流れる水の圧力)が上昇し、地震波の伝わり方が遅くなるといいます。地震波の減速は一時的なもので、水分の蒸発や流出によって取り除かれると間隙水圧は減少し、速度はアップするそうです。

さらに地震波の遅い時期、つまり岩盤内の水圧が高い時期は、特に大雪があった場合と地震発生のタイミングとで適合性が高いことが観測されました。

論文執筆者の1人であるMITのウィリアム・B・フランク博士は「地表での降雪やその他の環境負荷が、地下の応力状態に影響を及ぼします。大雪による降水現象は、能登の群発地震の発生タイミングとよく相関していました。地震がなぜ起こるかの原因となるのはプレートですが、いつどのように起こるかに影響を与えるものの1つは気候であることは明らかです」と語っています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然

ビジネス

米連邦地裁、マスク氏の棄却請求退ける ツイッター株

ビジネス

中国国営メディアがパナマ港湾売却非難を一時投稿、ハ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story