コラム

7月4日の地球は「過去12万5000年間で一番暑い日だった」と専門家 「12万5000年」の根拠は?

2023年07月11日(火)20時50分
噴水で暑気ばらいする人々

パンテオンの噴水で暑気ばらいする人々(7月10日、伊ローマ) Remo Casilli-REUTERS

<地球規模の猛暑の原因、「12万5000年」という数値がどこから算出されたかについて掘り下げる>

米国立環境予測センターの観測データの分析から、7月4日の地球全体の平均気温(世界平均気温)は17.18℃で、1979年の衛星観測開始以来、最も暑い日であったことが分かりました。米ワシントン・ポスト紙によると、「過去12万5000年間の地球史上で、最高気温と考えられる」と指摘する気象学者もいるといいます。

世界最高気温は前日の3日に17.01℃を記録し、「19世紀末に計測機器による気象観測が始まって以来、初めて17℃を超えた」と話題になりました。それまでの記録は16年8月14日に達成した16.92℃で、2日連続で過去最高気温を更新しました。

さらに世界気象機関(WMO)は10日、暫定データとしながら「世界平均気温は7日に17.24℃を達成した」と発表しました。

日本でも、10日は、都内で今年初の猛暑日(最高気温が35℃を以上)になりました。先月20日に発表された気象庁の3か月予報(7~9月)では、今年は例年以上に太平洋高気圧が日本の南へと張り出す見込みで、とくに沖縄から関東にかけては例年よりも暑くなると予測しています。

今年の地球規模の猛暑は、何が原因なのでしょうか。また、過去12万5000年間という数値は、どんな根拠から算出されたのでしょうか。深掘りしてみましょう。

気象観測の歴史

気象観測は、人類史が始まって以来なされてきたと言っても過言ではありません。自然現象を書き留めたり、季節ごとの変化を参考にしたりすることは、農業や防災、健康管理に必要不可欠な作業でした。

近代的な気象観測は、地上、海洋、高層大気、衛星データによって行われています。

地上気象観測は最も古くから行われてきており、天気、気温、気圧、降水量、湿度、風向風速、日射量などのデータは、長年の蓄積があります。

海洋気象観測は、かつては船で測定されていました。地上気象観測で得られるデータに加えて、海流の向きや速度、海水温、海氷の有無なども記録されます。20世紀になると、長時間の観測や観測点の増加のために海洋気象ブイが開発され、海洋学の発展に貢献しました。

地球の高層の観測は、1749年にスコットランドの天文学者アレキサンダー・ウィルソンが、凧に温度計を付けて飛ばしたことから始まったとされます。フランスの物理学者ジャック・シャルルは1783年、気球に乗って大気の機器計測を行いました。20世紀半ばには、気球に取り付けて、高層大気の成分や、気温、気圧、湿度などの測定値を無線で地上に送信する特殊な装置(ラジオゾンデ)が開発されました。現在は、オゾン濃度やエアロゾルの計測なども可能となり、大気汚染の把握にも役立てられています。

20世紀半ばには、各国が打ち上げた気象衛星に搭載された可視光線センサーや赤外線レーダーによる観測も始まりました。雲の有無の画像解析や、大気成分の分布、温度、水蒸気量、風向・風速の推定などが可能です。気象衛星の所有国は、途上国なども気象予報に利用できるように衛星データを国際的に開放しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:パナマと米国の移民減合意、危険な地峡通行

ビジネス

アングル:パリ五輪、ホテルや航空券は予約低調 価格

ワールド

ハマス、イスラエル人質解放巡る米提案に合意 一部譲

ワールド

イラン大統領選、改革派ペゼシュキアン氏が当選 決選
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ルイ王子の「お行儀の悪さ」の原因は「砂糖」だった...アン王女の娘婿が語る
  • 2
    ドネツク州でロシア戦闘車列への大規模攻撃...対戦車砲とドローンの「精密爆撃」で次々に「撃破」する瞬間
  • 3
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 4
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 5
    「下手な女優」役でナタリー・ポートマンに勝てる者…
  • 6
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド…
  • 7
    洗わず放置した「水筒」が大変なことに...内部に「生…
  • 8
    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…
  • 9
    『ザ・ボーイズ』がくれた「イケメン俳優」像を笑い…
  • 10
    「黒焦げにした」ロシアの軍用車10数両をウクライナ…
  • 1
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 2
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 3
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 4
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 5
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 6
    黒海艦隊撃破の拠点になったズミイヌイ島(スネーク…
  • 7
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかか…
  • 8
    キャサリン妃も着用したティアラをソフィー妃も...「…
  • 9
    ルイ王子の「お行儀の悪さ」の原因は「砂糖」だった.…
  • 10
    能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者た…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 5
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 6
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 7
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 8
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地.…
  • 9
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
  • 10
    「何様のつもり?」 ウクライナ選手の握手拒否にロシ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story