コラム

「子供の頃から寝不足」「女子の方が休日に寝溜めする」日本人の睡眠傾向とリスク

2022年10月25日(火)11時20分

睡眠不足が健康に悪影響を及ぼすことはよく知られています。インスリンや成長ホルモンなどの分泌が低下して糖尿病や高血圧が起こりやすくなったり、食欲抑制ホルモンのレプチンの分泌低下と食欲ホルモンのグレリンの分泌増加で肥満しやすくなったりすることが、これまでの研究で確認されています。さらに、免疫力が低下して炎症反応が起こりやすくなる現象も観察されています。

「睡眠中毒(睡眠慣性)」にも注意を

もっとも、睡眠時間が短いことは悪いとは言い切れません。適切な睡眠時間には大きな個人差があり、短い睡眠時間で健康を保てる「短眠者(ショートスリーパー)」も存在します。さらに、近年は「睡眠時間が長いリスク」も注目されています。

睡眠時間が短い人と言えば、ナポレオンは1日3時間、英国のサッチャー元首相は1日4時間しか寝ていなかったと伝えられています。日本の著名人では、『ワンピース』でコミックス全世界累計発行部数のギネス世界記録(22年8月に5億部)を持つ漫画家の尾田栄一郎さんは、朝9時に寝て昼12時に起きる3時間睡眠の生活だと公表しています。また、タレントで日本フェンシング協会会長の武井壮さんは、13年のテレビ番組で行われた睡眠分析によって「深い睡眠を効率的に取っており、45分の睡眠が一般人の7時間に匹敵する」ことが示されました。

全国の住民の健康状態を30年近く追跡調査した「JACC Study」では、約10万人の睡眠時間と総死亡リスクの関係も調べられ、睡眠時間が短いだけでなく、長くても死亡リスクが上がることが分かりました。

7時間睡眠の人の死亡率を1とすると、男性では睡眠時間が4時間以下の人の総死亡リスクは1.3倍になる一方、10時間以上の睡眠でも1.4倍になっていました。女性では、4時間以下で1.3倍、10時間以上で1.6倍でした。

もともと体調がすぐれない人が、長時間、横になっている傾向があることも加味しなければなりませんが、睡眠が長すぎる場合には「睡眠中毒(睡眠慣性)」と呼ばれる悪影響があることも知られています。寝すぎたり二度寝をしたりすると、起きた後にかえって眠気が残り、頭がはっきりせず調子が悪くなるという現象です。この状態で車の運転などをすると、事故のリスクが高まると考えられています。

生まれた時から当たり前にとっている睡眠ですが、自分にとって適切な睡眠時間を知ることが、人生の生活の質を上げるのに重要な要素となりそうです。

20250311issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年3月11日号(3月4日発売)は「進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗」特集。ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニスト、29歳の「軌跡」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story