コラム

「子供の頃から寝不足」「女子の方が休日に寝溜めする」日本人の睡眠傾向とリスク

2022年10月25日(火)11時20分
居眠り

学齢が上がるにつれ、遅寝・遅起きの傾向が顕著に(写真はイメージです) D76MasahiroIKEDA-iStock

<小学4年生から高校3年生までを対象に睡眠習慣を調査した広島大・田原優准教授らの研究で、睡眠不足とその精神衛生への影響が示された。とりわけ女子において関連が強いことが分かった>

人生のうち約30%を費やす睡眠。疲労回復に必須なだけでなく、不足すると生活習慣病のリスクが高まったり、ストレスや鬱状態が悪化したりするとされており、心身の健康を保つために欠かせない営みです。

日本人の睡眠は、先進国の中で最も短いことが各種の調査で示されています。けれど、これまでは成人に関する研究ばかりで、子供の睡眠に対する調査はほとんど行われてきませんでした。

日本人の睡眠時間の特徴は、子供の頃から培われているのでしょうか。このほど米国睡眠学会のオンライン誌「SLEEP Advances」に発表された日本人の子供の睡眠習慣に関する調査結果と、近年の日本人の睡眠時間の傾向を見てみましょう。

高校生のうちから短時間睡眠が定着

広島大の田原優准教授と、早稲田大・柴田重信研究室、東京工業大・高橋将記研究室、ベネッセ教育総合研究所は、全国の小学4年生から高校3年生までの9270人(各学年、男女それぞれ515名)を対象に、「子どもの生活リズムと健康・学習習慣に関する調査」を2021年6月に実施しました。

その結果、子供の睡眠習慣は、学齢が上がるにつれ、遅寝、遅起きが顕著になることが確認されました。

高校3年生では、1週間の平均睡眠時間が7時間9分で、日本人全体の平均(7時間22分、OECD〔経済協力開発機構〕の調査〔21年〕)よりも短いことが分かりました。つまり、睡眠時間の短さは高校生のうちから習慣化していることが示されました。

さらに詳しく見ると、平日の平均睡眠時間は6時間36分と短く、休日は8時間以上と、休日に「寝溜め」をしていることが分かりました。

この原因は、「子供の夜ふかし」にありました。調査によると、高校3年生は平日、休日にかかわらず、平均就寝時刻が24時を過ぎていました。

平日は学校があるので朝6時半頃に起床せざるを得ず、睡眠不足になります。そこで休日に長時間寝ることで、平日に溜まった睡眠負債(平日と休日の睡眠時間の差。値が大きいほど平日が睡眠不足と言える)を解消していることが分かりました。

1週間の睡眠不足は、小学生は平日合計1時間程度でしたが、高校生では平日合計2時間半から3時間にまで増えていました。そのために、高校生は「社会的時差ボケ」(平日と休日の生活リズムの時刻差)が平均で1時間を超えており、生活リズムの乱れが目立ちました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story