コラム

自民党は一度、ネット世論戦略に失敗している。Dappiはその後継か?

2021年10月21日(木)18時12分

自民党の本格的ネット世論戦略は、2010年に始まった。J-NSC(自民党ネットサポータズクラブ)の設立である。2009年に麻生自民党が鳩山民主党政権誕生で下野すると、自民党はリベンジに燃えた。第一の目標は麻生から鳩山の政権交代が、既存メディアにおける不誠実な自民党批判によって行われたと認識し、これらメディアへの対抗軸をネットに構築することであった。事実、麻生太郎は「漢字が読めない」などとさんざん大メディアに批判され、内閣支持率は急下降した。この既存メディアによる報道が自民党の下野を呼んだと判断したため、対抗となるネット世論への訴求が必要であるとしたのである。

J-NSCの草創期、私は自民党本部に取材に向かった。タウンミーティングでは60代や70代以上の高齢者ばかりを相手にしてきた自民党にとって、大都市部に住む40代男性を主力とするJ-NSCは「まず第一に若い」という印象を持った、と自民党担当者は言った。しかしこの大都市部にすむ40代男性という社会階層こそ、所謂「ネット右翼」のど真ん中だったのである。

ネット保守によりヘイト化

J-NSCの初期段階は、前途多難であった。政治的基礎教養が乏しく、人文科学系等に疎いネット保守がこぞって闖入してくるため、J-NSC会員が流す言説はたちまちヘイト化し、統制の取れない状況になった。J-NSC会員を名乗るアカウントからは、大量でしかも恒常的な、在日コリアンや韓国・朝鮮、中国への罵倒が相次いだ。このような事情を鑑み、2013年4月には、


"【J-NSCニュース】みなさんへのお願い『J-NSCを騙る人種・民族差別発言』について"

と題して、人種・民族差別発言を許容しない旨、自民党が掣肘する注意喚起が会員向けに流されたほどである。

尤もこの中で、"J-NSCを騙る"とあるが、実際にはこうした差別言動をJ-NSC会員本人がやっていた事実は少なからずあるだろう。当然のこと、SNS上で差別言動をとるアカウントのプロフィール欄にJ-NSC会員と書かれていても、その真偽を断定することはできないからである。こういった差別言動の少なくない部分を、J-NSC会員が担っていたことは私自身の観測から言って間違いない。要するに、初期のJ-NSC会員には、自民党が好きという以前に、大量のヘイトやデマをまき散らす「不良会員」が多くいたのである。彼らが跋扈すると、当然自民党にとっては「贔屓の引き倒し」であり、放置しておくことはできなくなる。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story