クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢
コミックの聖地、東京ビッグサイト GOTO_TOKYO-iStock.
<日本のマンガ、アニメや農産品、ファッションを海外に売るために政府も出資して設立されたクールジャパン機構が巨額赤字で危機に陥っている。筆者は2018年からこうなることを予想していた。むしろ問題は、こんな駄目ファンドが生まれ、今まで続いているかということだ>
破滅に向かうクールジャパン機構
11月22日付の朝日新聞で『失速したクールジャパン 政府肝入りファンドに「最後通告」』という記事が出た。要約すると第二次安倍政権の肝いりとして2013年から官民ファンドとして設立されたクールジャパン機構(以下CJ機構)が21年末の段階で累積309億円という巨額の赤字を垂れ流しており、財務省が23年度中にも機構の統廃合を検討しているようである。
予想された結果である。私は2018年、CJ機構が東南アジアにおける事業計画の一大拠点として開店させたマレーシア・クアラルンプールの「ISETAN The Japan Store」を視察した。クールジャパンを謳っておきながら、店内には「スターウォーズ」「ディズニー」の商品が氾濫し、「日本産コンテンツ」は無いに等しかった。
食品フロアはむごいものだった。日本からマレーシアに輸入された農産品が、現地の市場価格を無視した異様な値付けがなされ、当然誰も買わないので放置されている。ファッションフロアも閑古鳥が鳴く。世界各地に進出しているユニクロ等のノウハウを無視し、「日本製品は優秀で高いブランド力を持つから工夫しなくとも売れる」という独善的な発想のもとに馬鹿高い値付けを行っているので、まるでフロアは失敗した遊園地のように客が誰もいない。同年6月、「ISETAN The Japan Store」の株式をCJ機構が手放して事実上撤退したのだが、この模様を私は『海外で見た酷すぎるクールジャパンの実態~マレーシア編~』として発表すると、膨大な反響があり取材が殺到した。
しかしなぜCJ機構はこれほどまで徹底的な失敗したのだろうか。端的にいえば、CJ機構は日本のコンテンツや農産品、ファッションを海外に売り出すと放言しておきながら、自国のことを何も知らず、進出先の商圏における競合企業等について市場調査を何もしなかったからである。敵を知らず己を知らず...放漫、慢心、傲慢、無思慮、そして無知。あらゆる冠詞をつけても足りないが、このような堕落をCJ機構は「日本は凄いのだ。ブランド力のある日本製品は無条件に海外に受け入れられるのだ」と糊塗して正当化した。CJ機構は失敗の総本山であり、完全に市場感覚が欠落した腐敗の集合体である。
例えば日本のアニメ、漫画等に引き寄せて分析を行っていこう。前述の「ISETAN The Japan Store」のとんでもない体たらくが示すように、CJ機構は日本のアニメ、漫画を売っていくと謳っておきながら、実際に日本国内に於いてどのようなアニメや漫画が人気であり、海外に於いてどのような具体的な作品が受けているのか、という知識を持たない。「ISETAN The Japan Store」の店舗構成が、CJ機構の無知の全てを物語っている。
敵を知らず己を知らず
ふつう、セールスマンは他人に商品を勧めるとき、自らが商品を使ってみて商品知識を深め、セールスポイントを探っていく。コンテンツも同じで、まず観てみて読んでみて感動するから他人に勧めようという熱量が生まれる。つまりセールスマンは、商売人であると同時にその商品の熱心なユーザーでなければならない。自分の会社が造った自動車に一度も乗らないのに、どうやって他者にその製品の良さを宣伝できるのか。商売人として当たり前のイロハをCJ機構は無視している。
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