コラム

やはり移民しか日本を救う道なし

2021年06月29日(火)14時47分

移民反対強硬論者の多くは、日本の保守層である。彼らは必ずヨーロッパの事例を持ち出して来て、「治安が悪くなる」ときて、「移民社会になると日本の伝統文化が破壊される」などとのたまう。欧州では旧植民地からの移民が内地にコロニーを作って集住している。ドイツの場合は植民地を持たないが伝統的にトルコからの移民を多く受け入れて減り続ける労働力人口を補った。出生率好転に成功したというフランスも、そのからくりは旧植民地(北アフリカ)からの移民層が出生率を押し上げているに過ぎない。そういったコロニーは時として排他的な集団・外部からは宗教的にも異質なコロニーを形成するから、現地に住む既存の白人層は危機感を覚え、移民排斥を謳った極右政党が躍進しているのは言うまでもない。

移民社会の副作用は少ない

しかしこういった欧州の移民政策を引き合いに出して、それをそのまま日本に援用することは無理筋である。日本が正式に移民を認め、移民社会になったとしても欧州の様な「移民社会の副作用」は極めて軽いか、或いは起こりえない。

日本の土地所有形態は、零細の土地所有者が大都市部にモザイク状に入り組んだ複雑高度な所有権を行使している。これによってバブル期に所謂「地上げ」が起こったわけであるが、土地所有に執着のある日本の地主は、広範にわたって一括に移民に土地を売ったりはしない。よって日本では大都市部に移民のコロニーが誕生することはあり得ない。せいぜいが「インド人の(若干)多い街」「パキスタン人の(若干)多い街」が形成されるだけで、圧倒的多数は日本人で日本の土地所有者である。

加えて日本は欧州と違って可住地面積が狭い。可住地面積とは山岳や森林地帯を除いた「人の住める場所」を示すが、日本は国土の約7割が山林地帯で、ある日突然移民によって事実上「占拠」されたコロニーが郡部にできるという事はあり得ない。移民はどうしたって、東京・大阪・名古屋といった大都市に日本人と混住して暮らすほかなく、コロニーを作りたくともコロニーを作る場所がないのだ。せいぜいが大規模マンション200戸のうちの20戸を中国人やベトナム人やブラジル人が賃借する、という程度で、彼らは日本社会に徐々に溶け込んでいくしかない。日本特有の国土の狭隘さが、移民社会の副作用たるコロニーの形成を防ぐのだ。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story