コラム

安倍政権の7年8カ月の間に日本人は堕落した

2020年08月31日(月)16時30分

そうこうするうちに、2015年12月、韓国朴槿恵政権といわゆる「慰安婦合意」が成った。「従軍慰安婦など無かった」と主張する保守派はこの合意自体に大いに不服であったが、私は日韓関係の未来のためには極めて重要であると考え、安倍総理のこの合意締結は英断だと思った。しかしこのころ、つまり2015年前後から、どうも私の考えは保守派の主流から外れていったらしい。保守派の主流は、戦後70年談話にも日韓合意にも大いに反対で、安倍内閣に対しもっと強硬で、歴史修正主義的な政策や言動を切望するようになっていった。このころから、ポスト安倍はささやかれ始め、石破茂の名前がやり玉に挙がったが、保守派の主流は石破に批判的で、むしろ「安倍の足を引っ張っている」と呪詛するようになった。

私は自分のことを「対米自立」を唱える保守本流と思っているが、この時期の保守の主流は、とにかく安倍総理のやることに対抗するそぶりを見せたものは「反日」として攻撃の対象にした。2015年自民党総裁選で無投票で信任された安倍総裁は、2018年の総裁選で立候補した石破と争ったが、そのころには石破を支持するものは「反日」という空気が出来上がっていた。石破茂は憲法9条2項の「陸海空軍の戦力を持たず国の交戦権はない」の改正を唱える改憲論者だが、なぜか石破は「左翼」に認定されており、安倍追従が大合唱された。

無能なコメンテーター

こうした保守主流の動きを鑑みて、2015年ごろから私は彼らの言説に批判的となった。どう考えても安倍追従の大合唱は異常であって、健全な民主主義社会の形ではない。安倍総理・総裁を信任するのは良いにしても、そこには根底で喧々諤々の議論が起こらなければならない。2015年の自民党総裁選における安倍総裁への無投票信任はこれを象徴する出来事であった。

同じころ、主にテレビのコメンテーターには、無批判な安倍追従を是とする「自称文化人」が跋扈しだした。当初、彼らは物珍しさから登用され、次第に浸潤戦術のようにわが物顔で跳梁跋扈するようになった。しかしその多くはすぐに差別的な失言を行ったり、SNS上でデマを流したり、はたまた商魂たくましく己の権益を拡大しようと無理筋な攻勢に出たために、漸次的に番組や局から追い出され、生き残ったのは少数であった。が、これに代わって無味乾燥な、実態の知識・教養は空っぽであるにもかかわらず、権力に対して微温的にYESの姿勢をとるものが重用されだした。本当に批判精神を欠いた無能なコメンテーターが増えた。この傾向は現在も続いている。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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