コラム

「バカにされよう。主流はこっちだ」デジハリ杉山学長が考えるAI時代の教育とは

2018年02月16日(金)12時30分

──不登校の子供って、哲学しているように見えるんです。リベラルアーツを学ばなくても、大事なものを掴んでいるように思うのですが?

杉山 そうですね。そういう子供たちに「君が悩んでいることは、みんなが悩んできたことなんだよ」と、うまくやさしく伝える方法があればいいなって思います。「そうなんだ、人間って悩んでいいんだ」、そういう感覚が大事かなって思うわけです。そこは僕らもリベラルアーツ系の科目を拡充して3年目なので、まだ改良中の段階です。先生たちとも面談して、何を教えてどういう反応だったかを僕自身がひとりひとり面談して情報を集めているところなんです。

──ところでクリエイティビティって何なんでしょう?

杉山 難しい問題ですね(苦笑)。僕は、クリエイティビティってすべての人が持っているものだと思います。ですが、これまでの社会や、教育の中で、それを削いできた。多くの方が、自分の奥底に閉まっているので、持っていることも気が付かないのだと思います。

【編集後記】 杉山学長に勧められてデジタルハリウッド大学の卒業制作展に行ってきた。制作物は映画やCGなどアート作品が多いのだが、卒業生は必ずしもアート系の仕事に進むのではないことが分かった。イベントのパネル討論会には、海外のホテルの支配人や、起業家、芸人になった卒業生などが登壇。卒業後の進路が本当にさまざまなことに驚いた。進路はさまざまなのだが、共通していることは、それぞれが自分の道をいきいきと歩んでいるということだった。

どうやらデジハリはアートの学校ではなく、本当の自分にしっかりと接地し、自信を持って自分の道を進むことを教えている学校なのだと感じた。なので起業家を多く輩出しているのだろう。起業家マインドを持つことこそが、これから多くの人にとって必要だと言われていることとも合致するわけだ。

杉山学長によると、これから100年ほどは価値観変化の混乱の時代。その変化に苦しむ人も多くいることだろう。「バカにされよう。世界を変えよう」はすごくいいキャッチコピーだと思う。大学院生に刺さったのに、高校生には刺さらなかったというのが興味深い。高校生の多くは、自分たちの価値観にそこまで自信が持てないのだろう。教育は、価値観変化の狭間に揺れる 人たちをどう導いてあげることができるのだろうか。

どうやらデジハリは、その方法を早くから試行錯誤してきたようだ。その試行錯誤の結果、杉山学長が「分かった」と感じた方法とは、①目の前の大人が新しい生き方を認めてあげるという「承認」②自分と同じような人たちがいるという「安心」③自分らしく生きていても未来は明るいという「希望」、この3つを与えてあげるということだったようだ。

今回のインタビューで、AI時代に必要なスキルとは、デジタルのスキルに加えて、自分の「好きを貫き通すスキル」であること。そしてAI時代の教育とは、本当の自分を大事にする人間を育てることだと再確認させてもらった。そしてそういう人間が育つためには「承認」「安心」「希望」のある環境が不可欠なのだということも分かった。

混乱の100年は始まったばかり。これからますます増えるであろう「好きを貫き通し、悩み苦しむ若者たち」に、「承認」「安心」「希望」を与えられる社会にしていきたいと思う。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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