コラム

21世紀最大のビジネスチャンス「ヘルスケア」に挑むAmazonの可能性

2018年02月09日(金)13時09分

Ben Thompson氏

メディアではないが、ビジネスアナリストBen Thompson氏のブログが注目を集めている。


・Amazonが3社だけの健康保険を始めることはない。健康保険はスケールしないと儲からない事業。スケールすればリスクを分散できるし、管理コストも下がる。3社が大企業だからといって、保険会社より低コストで運営できるわけではない。

・なのでAmazonは、同社のECサイトと同様に、ヘルスケアの領域でもアグリゲーターとしてのプラットホームを目指すのだと思う。医療やヘルスケア、保険などの業務をモジュール化し、コモディティ化することで、事業者間での競争を促進し、価格を引き下げるのが狙いだろう。

・事業者に参画してもらうには、消費者が多く集まらなければならない。なので消費者に最高のユーザーエクスペリエンスを提供することが不可欠。

・そのユーザーエクスペリエンスの核になるのがデータだ。消費者の健康データなどのデータを統合し、機械学習で解析。データを基に、消費者にとっても医師にとっても価値のあるサービスを提供することができれば、プラットホーマーになることが可能だろう。

こうしたことに成功すれば、Amazonは今のECサイトをはるかに凌駕する規模のビジネスを手に入れることになるだろう。一国の政府でもなし得なかった医療・ヘルスケア・保険の改革を、民間企業主導で実現させることは、ある意味エポックメイキングでもある。国家、政府の役割の見直しにも発展するかもしれない。


New York Times

一方で、ニューヨークタイムズは、そうした壮大な見解に対して、かなり懐疑的だ。Can Amazon and Friends Handle Health Care? There's Reason for Doubtという記事の中で、その理由を次のように述べている。


・過去にも斬新な手法で試みた企業があった。少しは医療費削減に成功した企業もあったが、その額以上に医療費が高騰。焼け石に水の状態だ。医療は、いろいろな規制がある上に既得権益者が多い領域なので、イノベーションを起こすことは容易ではない。

・これまでテクノロジー企業が手がけたイノベーションは、従来の製品やサービスより少しだけ質は劣るが、それ以上に価格を大幅に引き下げる、という手法が多かった。しかし医療の領域ではこの手法は、うまくいかない。なぜなら多くの人は、少しでもいい治療を受けられるのなら、金に糸目をつけないことがあるからだ。医療の領域には、コストパフォーマンスという考えは、当てはまらない。

・Amazonは従業員の医療費の削減で浮いたお金を、ほかの領域のイノベーションや、製品の値引きに回すことで、自社の競争力を高めようとするだろう。競合他社には、その方法を教えようとしないだろうし、米国の医療費高騰の問題が根本的に解決されるわけではない。

こうして見てもいろいろな意見があるようだが、ただ一つ言えることは、今回の取り組みは、これまでに類を見ないような大規模の取り組みであるということだ。

Amazonら3社の取り組みがうまくいくのかどうかは分からないし、うまくいったとしても、規制や状況が大きく異なる日本にその仕組みを、そのまま持ってくるわけにはいかない。

しかしこの挑戦が、本格的な少子高齢化時代を迎えようとしている日本にとって、非常に大きなヒントになることは間違いないだろう。Amazonのお手並み拝見というところだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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