コラム

次のAIフロンティアは自然言語処理?

2016年11月02日(水)17時00分

完成するの意味が違う

 このことに関してシリコンバレー取材に同行してくれた仲間たちと徹底的に議論した。その結果、われわれが達した結論は、「完成」の定義が人によって異なるのではないか、ということだった。

 今日でも自動翻訳技術はある程度の翻訳をこなすし、siriのようなデジタルアシスタントはある程度の受け答えが可能。しかしこうしたサービスの裏側にあるAIは、ユーザーの発する言葉の意味を理解しているわけではない。

 九官鳥に「おはよう」と語りかけると「おはよう」と返してくれるので対話が成立しているように見えるが、九官鳥は「おはよう」の意味を理解しているわけではない。同様にsiriに「今日の天気予報は」と聞くと、ネットを検索して今日の天気予報を探してきてくれるが、「天気」や「予報」「晴れ」「雨」などの意味を理解しているわけではない。

 自然言語処理技術が完成するまで30年以上かかるか、もしくは完成することはない、と主張する人たちは、「完成」の定義を「AIが人間並みに言葉の意味を理解すること」としているのだと思う。

 一方で早ければあと5年で自然言語処理の課題が解決すると主張するRussell教授の「完成」の定義は、「意味を理解していなくても、やり取りのパターンを大量を覚える」というようなものなのかもしれない。

 確かに九官鳥やsiriがいろいろな問いに対して的確に返答するパターンを無数に持つことができれば、たとえ意味を理解しなくても、ほとんどの対話が成立するようになる。AIが意味を本当に理解していなくても、対話が目的を達成するのであれば、それで十分なのかもしれない。

 意見の対立は、こうした定義の違いからくるものではないか。われわれの仲間内ではそのような結論に達した。

 しかし本当のところは分からない。ただもしUniversal Probability LanguageがRussell教授が主張するように世界を変えるような技術なのであれば、これから関連する情報が次々と出てくるはず。自然言語処理界隈の動向を見守っていきたいと思う。

 そして何よりも、異なる意見が存在するといういことは、ビジネスチャンスが存在するということだ。ほとんどの投資家が業績が上がると予測する企業の株を買っても、大儲けはできない。ほとんどの投資家が見捨てた企業の株を買って、その企業が急に成長すれば、大儲けとなる。

 かなりの広範囲の業界に影響を与える技術革新になりそうなので、自然言語処理の現状と可能性をこの時点で押さえておくことは非常に重要なことだと思う。


2歩先の未来を創る少人数制勉強会TheWave湯川塾主宰
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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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