コラム

21世紀はバイオの時代 出るか夢の新素材

2015年10月15日(木)16時11分

 1つ目の課題に関しては、人間や生物で実験するのではなく、実験環境を人工的に準備しようという試みが始まっている。ハーバード大のWyse Insitituteが開発した臓器チップ(Organ on chips)は、臓器が作り出す環境をプラスチックのチップ状に再現したシミュレーター。細菌を注入するなどの外部刺激に対して臓器がどのような反応を示すのか、などの実験が手軽にできるというものだ。

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細菌などの外部刺激に生体がどう反応するかを簡単にテストできる「臓器チップ」 WYSS INSTITUTE/HARVARD

 2つ目の実験の自動化に関しては、Prefferd NetworkやLPixelを始め、幾つかのベンチャーが関心を持って動き始めている。

あっと言う間に増殖する微生物は製造業最強のプラットフォーム

 中でも注目すべきは米国防総省の研究開発部門である高等研究計画局(DARPA、ダーパ)だ。DARPAは、2014年4月にBiological Technologies Office(BTO)を開設、BTOが取り組んでいるプロジェクトの1つが、実験ツールのクラウド化。自分の研究室でパソコン上で実験を計画すれば、インターネットを通じて別の場所に設置されたロボットアームが実験を実施してくれて、その結果だけをネットを通じて見ることのできるシステムを開発しているのだという。

 3つ目の課題であるゲノム論文の検索技術に関しても、DARPAが取り組んでいる。論文とゲノムデータをマッチングして、必要な情報を簡単に取り出せるデータベースの構築に力を入れているという。このシステムを使えば世界中の研究者が低コストで生物学の実験を実施できるようになるという。

 BTO設立間もない時点の講演で、BTO副所長のAlicia Jacson氏は、2年ほどで、こうしたプロジェクトを完成させたいと語っている。

 まだ完成したという発表はないが、うまくいけばあと半年か1年後には、こうした課題の解決のめどが立つはず。そうなれば新たな薬品や新素材の開発コストは何十億円から何千万円へと軽減され、10年以上かかっていた開発期間が1年前後に短縮される可能性があるという。

 そうなればバイオxITの世界が一気に花開くかもしれない。

「微生物を見ても分かるように、あっと言う間にどんどん自分のコピーを作ってしまう」。「ナノレベルでも、ミクロレベル、メートルレベルでも、簡単に生成できる。バイオロジーこそが最強の製造業のプラットフォームです」とJacson氏は指摘する。

「生活を一変するような新素材は、1920年代のプラスチック以来出てきていない」。バイオxITで、生物由来の新素材が次々と誕生するようになると同氏は主張する。

 確かに生物由来の新素材は大きな期待が集まっている分野。日本でも鳥取大学がカニの殻から採取できる繊維を「マリンナノファイバー」として商品化している。マリンナノファイバーは、整腸作用や、ダイエット効果、保湿効果などに優れており、化粧品や、医薬品、農業資材、補強繊維、食品添加剤などへの応用が期待されている。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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