コラム

ロシア軍がウクライナ攻撃に使用したドローンに、なぜ日本製品が?

2022年11月19日(土)17時33分
イラン軍ドローン

イラン軍の演習で発射されるドローン(2022年8月) Iranian Army/WANA (West Asia News Agency)/Handout via REUTERS

<イランはアメリカから厳しい経済制裁を課されているが、ロシアがウクライナ攻撃に使用したイラン製ドローンからは日本製品も発見された>

最近、ウクライナで今後の行方を左右するような動きが続いている。

まずウクライナ南部の戦略的要塞ヘルソンから、ロシア軍が撤収した。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防省がきちんと発表も行なっていることから、対外的なメッセージであると受け止められる。ロシア軍は、去り際に大量の地雷やブービートラップを仕掛けたり、ヘルソンに流れるドニエプル川にかかる橋を爆破するなどしながらドンバス地域に後退した。

さらに11月15日にはポーランド東部にミサイルが着弾して男性2人が死亡する事態になり、大きなニュースになった。この件では、ロシア製のミサイルだったことが判明しているが、誰がミサイルを発射したのかはいまだに議論になっている。

その一方で、2月に始まった侵略直後から指摘されているようにロシア軍の軍事力不足は相変わらずのようだ。最近のニュースでは、北朝鮮から砲弾などの購入を進めていると報じられ、イランからドローン(無人機)を大量に購入しているとも言われている。

イラン製のドローンについては、ウクライナの情報機関であるGUR(ウクライナ国防省情報総局)から興味深い情報が伝わっている。最近ウクライナ国内で回収されているロシアが使用したイラン製ドローンは、今回のウクライナ侵攻後(つまり2月24日以降)に製造されており、しかも部品のほとんどがアメリカ製であることが判明したという。

GURは、公式サイトでその事実を公開し、「部品には一切ロシア製品が使われていない」と明らかにしている。さらに、ドローンはオーストリア製エンジンが組み込まれており、さらにドローンのカメラは日本製だという。

イランとビジネスした企業に厳しい措置

日本の公安当局関係者は、「ドローンからは日本製の半導体も見つかっている」と述べている。その上で、どのように日本製品が、核開発疑惑によってアメリカから厳しい経済制裁を課されているイランに流れたのかも慎重に調べているという。

アメリカによる経済制裁は、イランとビジネスを行うことでも企業は制裁に違反しているとされるため、世界中の企業に幅広くその影響は及ぶ。

例えば、中国企業が罪を問われるケースは少なくない。ロイター通信が2018年に報じているように、アメリカ政府は中国通信機器大手のZTE(中興通訊)が対イラン制裁に違反をしてビジネスを行っていたとしてZTEに対して罰金を求め、ZTE側も有罪を認めている。さらに中国の通信機器大手、ファーウェイ(華為技術)も対イラン制裁に違反したビジネスをしていたとして、アメリカ当局の要請によって同社副会長がカナダで3年ほど拘束されていたが、司法取引で2021年に中国に帰国している。

結局、イランのドローンから見つかった日本の半導体は、どの国からイランに渡ったのか──。その詳細は、「スパイチャンネル~山田敏弘」で解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザの砂地から救助隊15人の遺体回収、国連がイスラ

ワールド

トランプ氏、北朝鮮の金総書記と「コミュニケーション

ビジネス

現代自、米ディーラーに値上げの可能性を通告 トラン

ビジネス

FRB当局者、金利巡り慎重姿勢 関税措置で物価上振
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story