コラム

フランス領コルシカ島に忍び寄るカタルーニャ独立騒動の余波

2017年11月29日(水)19時00分

自治権の拡大

一方、1982年以降、ミッテラン政権による地方分権化の方向の中で、民族主義の高まってきたコルシカには他の地域より広い分権化が進められ、文化政策や地域開発、鉄道整備などの分野で地元の権限が拡大されるなど、一定の地方自治が認められていった。

現在でもコルシカは他の地域とは異なり、州にあたるコルシカ地方自治体(Collectivité territoriale de Corse)の権限が強く、教育、放送、環境などの分野にまで、広く権限が認められるようになっている。また普通の州と異なり、コルシカ地方自治体の議会であるコルシカ議会の議長が執行部の長となるのではなく、それとは別に執行部とその長(首長)が議会によって選任され、執行部は議会に対して責任を負う(議会によって信任ないし不信任される)という特別の制度が取られている。

これに加え、さらに2018年1月1日から、コルシカ地方自治体と、それを構成する2つの県(オートコルス県とコルスデュスュド県)が合体して、単一の自治体、コルシカ自治体(Collectivité de Corse)が誕生することになっている。新しい単一の自治体は、それまでのコルシカ地方自治体と二つの県が持っていた権限と予算を統括的に行使し、行政機関とそのスタッフも集中的に管理・運用できるようになる。また、それに伴い、道路整備、土地整備、経済開発、社会事業などの分野でも権限が拡大され、自治権が強化される。

こうした自治権の拡大は、民族主義勢力が長年求めてきたものだ。しかし、これは簡単に実現できたものではない。過去、2003年に同様の制度改正が政府との間でまとまったものの、同年7月に行われたコルシカ住民投票で、51%の反対により葬り去られた経緯がある。このように、自治拡大の動きに対しては、島民は決して一枚岩ではない。元々の現地住民と、移住してきた新規住民(「大陸人」と呼ばれたり、フランス人と呼ばれたりして、島民やコルシカ人と区別される)との間には、越えがたい断絶がある。フランス世論研究所(IFOP)の調査によれば、元々の現地住民の割合(有権者ベース)はおよそ50%であるとされている。

こうした経緯を経てようやく実現した、今回の制度改正のもとで、新しい単一の自治体の議会を選出する選挙が、来る12月3日と10日に行われる。その結果改めて選任される新執行部は、それまで県と自治体に分散していた権限を統括的・集中的に行使し、新しく広がった分野での権限をも梃子にして、大きな影響力を持つことになる。

その選挙での勝利が有望視されているのが、民族主義勢力の「コルシカのために」である。短期的には、シメオニとタラマニが手を組んだことが大きいが、他の勢力が分裂・分散して、実質的な対抗勢力となりえていないことも、民族主義勢力にとってプラスとなっている。中期的には、バスチア市長選挙、コルシカ議会選挙、国民議会選挙など一連の選挙での勝利も、追い風となっている。


プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story