オーストラリアの診察室から
オーストラリアの電力問題
ヨーロッパや他の多くの国でロシアとウクライナの戦争などの影響で電気代が高騰しています。最近のニュースによればオーストラリアの電気代も高騰していくといわれています。オーストラリアのウラン資源保有量は世界の46%を占めます。石炭と天然ガス資源も多く保有しています。石炭は世界の保有量の6%を占め、天然ガスは約2%を占めます。世界有数のエネルギー大国でありながら電力不足になるのはなぜだろうと思ったオーストラリア国民も多いことでしょう。
電力不足の理由の一つは、オーストラリアが自国のエネルギー資源の約四分の三を輸出していることにあります。オーストラリアでは自国に十分な石炭と天然ガスをを保有していますが、長期の輸出契約を結んでおり、急にその契約を破棄したり、輸出量を変えたりすることは難しいようです。そのためオーストラリアもウクライナとロシアの戦争による電力資源の高騰の影響を完全に回避することは難しいのです。
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新型コロナウイルスのパンデミックによる規制が世界的に緩和され始めたことにより、昨年の9月以降から従業員がオフィスに戻る企業が徐々に増えてきました。それにより電力の需要は上がってきていました。しかし電力の供給は下がったままでした。このため電気代はすでに上がり始めています。
オーストラリアは世界有数のウラン産出国ですが、オーストラリアは原子力発電所を保有していないため、自国では使い道がありません。オーストラリアでの原子力発電は、過去に何回か議会などで提案されたようですが、様々な理由で原子力発電所の建設には至りませんでした。オーストラリアで採掘される石炭や天然ガスを利用したほうが安く済むというのが理由の一つのようです。原子力発電所は建設コストが高く、建設に15年ほどかかるのもその要因です。
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電力不足の他の理由は多くの石炭火力発電所が老朽化していて、操業停止予定になっていることです。メンテナンス作業も縮小されていて、頻繁に故障しているようです。最近では約三分の一の石炭火力発電所が停止していると言われています。
他の要素としては、数か月前に東海岸沿いで起こった大雨と洪水も石炭の支給に影響しています。終わるころには、冬が到来し気温が急激に低下しました。これにより電力需要がより増えました。特にビクトリア州などではガスヒーターの使用も増えました。
オーストラリアは世界有数のエネルギー資源を保有していますが、様々な原因が同時期に発生しているため電力不足に直面しているのです。計画停電なども場合によっては起こるかもしれません。他の多くの国と同じように、オーストラリアの電力問題はしばらく続きそうです。
参考
https://www.ga.gov.au/scientific-topics/energy/overview
https://japan.embassy.gov.au/tkyojapanese/resources.html
https://www.theguardian.com/australia-news/2022/jun/15/australias-energy-crisis-explained-from-price-caps-to-the-suspension-of-electricity-trading
https://newsroom.unsw.edu.au/news/business-law/energy-crisis-why-are-electricity-prices-set-rise
https://www.theguardian.com/environment/2021/oct/13/explainer-should-australia-build-nuclear-power-plants-to-combat-the-climate-crisis
著者プロフィール
- 高尾康端
日本、スイス、シンガポール、アメリカで育ち、2004年からオーストラリアに移住。シドニー大学医学部を卒業。現在は東ブリスベンエリアHawthorne Clinicにて家庭医 (GP)として勤務。家庭医の観点からみる病気についての情報、また母国である日本と移住地オーストラリアの医療システムの違いや、オーストラリアで病気になった時に役立つ情報を発信している。
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