タックス・法律の視点から見る今のアメリカ
大統領選より重要(?)な上院選
11月3日の選挙と言えばもちろんTrump対Bidenの大統領選に注目が集まりがち。アメリカのメインストリーム・メディアはFoxを除く大半がリベラルというか、民主党支持で、特にTrump大統領のことは俗な言い方をすれば大嫌いなので、何をやっても常に酷評されている。世の中の全ての問題はTrump大統領のせいみたいに聞こえるけど、僕が接している経済政策、特に税制面では過度な規制を緩和したりそれなりに雇用や経済成長に貢献していた。コロナになるまではね。
規制強化と規制緩和
オバマ政権末期にあわてて最終化されたとてつもなく面倒な米国過少資本税制にかかわるファンディング規定っていうのがあるんだけど、Trump政権発足時にあれだけは撤廃してくれなかったのはチョッと期待外れ。アドバイザーの立場としては、テクニカル面をサポートする機会は増えるし頭の体操的には楽しい(?)んだけど、実際にあれを適用しないといけない米国企業は頭が痛いだろう。特に過度なレバレッジを導入して節税を図ったりすることが少ないというか、悪い言い方をすれば日本以外の国から米国に投資している他のインバウンドと比べて米国オペレーションのDebt/Equityレシオに無頓着な、日本企業にとっては単にコンプライアンスのコストが上がるだけ。ここではあまり細かい税法の話しはしないって前提を思い出したので、脱線はこの辺にして、ファンディング規定知りたい方は僕のUS Taxのブログでディープな情報を仕入れて欲しい。
どうしてもTrumpとBidenに目が行くけど...
で、11月3日の選挙だけど、Trump大統領もBiden元副大統領も両人とも全く違う意味でキャラがキャラなだけに良くも悪くも、そちらに主たるフォーカスが行ってしまうけど、税法を含む今後数年の立法、または長期的な社会政策に与える影響を考える上で、僕が個人的に注視しているのは上院選。現時点では下院が2018年の中間選挙以降民主党、上院は2014年以降共和党、大統領府はご存じトランプ大統領誕生の2017年以降共和党という陣容で、両院が別の党に支配されていて、イデオロギーの戦いが激しいため、お互いに譲らず大型法案は通らない。コロナ対策のCARES Actは例外だ。
2017年の抜本的税制改正は3チャンバー同時制覇の結果
2017年の税制改正は、1986年のレーガン政権以来30年振りと言われているけど、クロスボーダー課税に関してはなんと1962年のケネディ政権以来60年振りの大改正。1962年にその後、日本を含む諸国でも導入されることになるCFC課税が米国で誕生している。2017年の税制改正はTrump政権が実行したかのように伝えられることがあるけど、行政府に属する大統領府がそもそも立法プロセスに直接関与することはない。米国の三権分立はかなり徹底している(というか徹底したはず?)ので、法案の提出、審議、可決は全て議会が行う。
議会は下院と上院で構成され、行ったり来たりの調整後、法案は一語一句違わぬ同一のものが両院で可決されないといけない。両院可決後、ようやく大統領の署名に回される。大統領には拒否権があるが、拒否権発動された法案は、再度両院で3分の2以上の賛成があれば、拒否権をオーバーライドして法律となる。ちなみに米国の三権分立の現状、その有効性の限界はいつか触れてみたい。
で、何が言いたかったかというと、Trump政権が誕生した2017年当時の第115会期は、上院、下院、大統領府の全て共和党が支配していたということだ。すなわち、両院および大統領府が一体となって2017年の税制改正が可能となったという点。それでも上院の多数は僅かだったし、同じ共和党の中でも超保守派と穏健派等で意見が割れることが多かったので、本当に2017年中に大型税制改正が可決するかどうかは12月22日まで毎日ローラーコースターに乗っているような状況で見守っていた。可決のニュースが届いたとき、たまたまChelsea Piersにいたんだけど、全てそっちのけでHudson River沿いでアラートを配信したのを覚えてる。上院、下院、大統領府の全てが共和党でも、公約だったオバマケアの廃案は派閥間の意見調整が難航し実現しなかった。Paul Ryanお疲れ様でしたって感じだったけど、この点をみても、上院、下院、大統領府にひとつでも異なる政党が支配しているチャンバーがあると、大きな法案はまず通らないということがわかる。
上院選挙の運命やいかに
11月3日は大統領と並び、下院、そして上院3分の1(プラス欠員の2名)の選挙が行われる。下院は民主党が多数を維持するとみられて、大統領はご存じの通りBiden有利が伝えられてはいるけど2016年の例もあり、実際のところ、蓋を開けてみないと分からない状況。上院は2018年以降、共和党が100議席のうち53議席を握っているけど、大統領選挙の結果にかかわらず、共和党としてはなんとしても上院を死守したいところだろうし、民主党としては一気に大統領と上院の双方を制覇し、増税やグリーンディールに代表される超大型政府を実現させたいところだろう。また、上院には、大統領が指名する最高裁判所を含む連邦裁判官をConfirmするという重要な役割があり、ここには下院は関与しない。現時点で、下院は民主党多数だけど、大統領と上院が共和党なので、保守系の裁判官を任命し続けることが可能。これも上院で多数を維持しているからこそできる特権。最高裁判所の裁判官の任命とその後の判決における票の割れ方はかなり面白いのでこれらもそのうち触れたい。
著者プロフィール
- 秦 正彦(Max Hata)
東京都出身・米国(New York City・Marina del Rey)在住。プライベートセクター勤務の後、英国、香港、米国にて公認会計士、米国ではさらに弁護士の資格を取り、30年以上に亘り国際税務コンサルティングに従事。Deloitte LLPパートナーを経て2008年9月よりErnst & Young LLP日本企業部税務サービスグローバル・米州リーダー。セミナー、記事投稿多数。10年以上に亘りブログで米国税法をDeepかつオタクに解説。リンクは「https://ustax-by-max.blogspot.com/2020/08/1.html」