コラム

日本政府のスマホアプリ規制、欧州のマネして拙速なリスクを取る必要があるのか

2023年11月29日(水)12時40分
岸田文雄首相

不完全な欧州のデジタル市場法を真似して日本が拙速なリスクを取る必要があるのだろうか...... Kiyoshi Ota/REUTERS

<不完全な欧州のデジタル市場法を真似して日本が拙速なリスクを取る必要があるのか。パブリックコメントには大半が反対意見......>

欧州委員会は2022年にデジタル市場法を制定し、AppleとGoogleなどのビックテックに対し、iOSおよびAndroidデバイス上でサードパーティのアプリやアプリストアを許可し、ユーザーが公式アプリからライバルアプリに簡単に切り替えられるようにすることを義務付けた。

この法律は独占禁止法の新たな適用例として注目を集めたが、やはり拙速であった点は否めないだろう。実はこのデジタル市場法は安全保障の専門家から再三に渡って、セキュリティリスクが指摘されてきた問題が多い法律だからだ。


敵性国家や悪質な犯罪組織などの脅威を排除できなくなる

なぜなら、公式ストアを経ない形でのサイドローディングを行うことができるようにすることは、事前に公式ストアのセキュリティチェックが不完全なものとなり、悪質なアプリによる脅威を排除できなくなるからだ。その結果、敵性国家や悪質な犯罪組織などがセキュリティホールを通じて、容易にターゲットの情報を取得したり、その内容を改変できるようになる可能性が増大することになる。

米国でも欧州のデジタル市場法のような規制を課す議論は存在しているが、バイデン政権が無理やり推し進めようとしても事態は遅々として進んでいない。それはセキュリティ面での問題がクリアできないことが大きな問題となっているからだ。欧州がこのような拙速な法律制定に踏み切ったことは、欧州がそのようなビックテックを有していない地域だからであり、その屈折した意識が政策に反映したものと言えなくもない。

実際、今年9月に欧州委員会は、モバイル・エコシステムに関する調査に関わる調達を開始した。この調達はIT担当部局であるDGコネクトが主導しているものだ。同調査は実は特徴的な内容が含まれている。それは上述のサイドローディングのセキュリティ上の懸念に関連する調査だ。

同調達自体は「デジタル市場法の監督と執行の支援のため」という名目になっている。しかし、その内容にはサイドローディングに関するセキュリティ上の懸念を解消するためのソリューション探索が含まれている。そして、その調査結果の公表は来年4月以降だ。つまり、これは欧州委員会は事業者や有識者などから表明された懸念されたセキュリティリスクに関して、デジタル市場法施行後も十分に対処するための方法を有していないことを示唆する。つまり、同調達が示した事実は欧州のデジタル市場法は成立ありきで進んだものであり、必ずしも十分な検討が行われていなかったということだ。

東京医師会の意見書は注目に値する

翻って、日本の検討状況はどのようなものだろうか。

政府デジタル競争本部は「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」を示し、欧州委員会とほぼ同様の内容の法律制定に向けて動いている。しかし、当然であるが、その内容は欧州の猿真似であるために同じセキュリティ上の懸念をはらんでいる。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story